彼女の悩み ３ ページ6
トコトコ歩いてくる彼女の姿が見えた。
「お待たせしてすみません。何笑っているんですか？」
彼女が俺を見て、不思議そうな顔をした。
顔に出ていたらしい。
「いや、何も。笑ってないし。」
俺が慌てて取り繕った。
すると、沙羅ちゃんが、井の頭線の改札の反対方向へ歩き出した。
「あれ？井の頭線じゃないの？」
「私、小田急線に乗るので、２人で帰ってください。これから町田の友だちと会うんですよ。カラオケオールしてきます！では！」
沙羅ちゃんが両手を大きく振っていた。
彼女と二人取り残された。
「沙羅は元気ですね。」
そう言って、吉祥寺行きのホームに歩き出した。
吉祥寺行きの電車が来て、俺たちは乗り込んだ。
井の頭線では、俺は連結部分の貫通扉の前にアコースティックギターを置いて立った。
彼女は、やはり俺との間隔をあけて自動ドア側に立っていた。
吉祥寺駅の中央線のホームで電車を待つときも、彼女は他人のフリをするように俺の後ろに立っていた。
中央線の電車がすぐにホームに入ってきた。
しかし、今日は何かイベントでもあったのかと思えるほど、車内はギュウギュウだった。
俺たちは、顔を見合わせて渋々電車に乗った。数駅の我慢だ。
身体の向きを変えるにも舌打ちされるほどの電車の中で、ギターを持っていると、乗客の視線が痛い。なるべく自動ドアの方を彼女を寄せて、彼女の横にギターを置いた。
彼女は俺に背を向けて、外の流れる景色を見ていた。とは言っても、吉祥寺から三鷹にかけては住宅街なので、ほぼ真っ暗だ。
俺も彼女の肩越しに景色を見ていた。
すると、
一瞬ガラスに映る彼女と目があった。
彼女は慌ててパッと目をそらした。
そして、俺から離れるようにギリギリドアに近づいた。
俺も一歩彼女に近づいて、自動ドアに手を置いた。
「そこまで避けられると傷つくんだけど。」
俺は彼女にだけ聞こえるようにささやいた。大体こうすると彼女の後ろから反応へ予想がつく。
「…。」
彼女はくすぐったいのか、手で耳を隠した。
ガラス越しに見ても、彼女の顔は赤い。
混雑の割に車内は、誰かの咳払いも響くほど静かで、彼女も返事が出来ないようだった。
俺は容赦なく、彼女にささやきかける。
「何で避けてるの？」
理由は知ってるけど。
「…。」
彼女は相変わらず黙ったままだった。
「俺、カッコ良すぎるん？」
俺は沙羅ちゃんが言った通りの大阪弁のイントネーションで聞いた。
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作者名：ののん
| 作成日時：2020年5月13日 22時
