【あんスタ】サバサバ女子 (ページ16)

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16話【追憶:王さまとの邂逅】後編ページ16

「ん～…、ちがう、ここはこうで…っ！」

異様な光景。

薄暗い室内。

床に散らばった音符や記号が書かれた何十枚もの紙。

ペンの書き綴っていく音。

アイデアを絞り出すように唸る声。

爛々と光る翡翠の瞳。

『…これは、すごい』

足元にあった1枚のインクが滲んでいる紙を手に取り、並ばさった音符と記号を眺める。

趣味でベースなどをやってるだけあって、音楽の教養はあるので、
ある程度楽譜は読める。

『どこか、気高く綺麗な音。
…でも、なぜか。

どこか寂しそうな音がする…』

急に今までずっと鳴り続けていた音が止まった。

その音は、彼の持っているペンが出していた音らしい。

「寂しそう…？」

突然入ってきたやつに目もくれず作業をしていた彼が、
初めて私を認識したように存在を目で確かめたあと、
消えそうな声で私の言葉を繰り返した。

『寂しそう…悲しそう…？
いや、何かを切望している？
しかも、迷いがあるというか…。

なにか悩みがあるんですか？』

初対面なのに、踏み込みすぎだろうか。

相手の目が大きく見開かれる。

「楽譜見ただけで人の心を読み取れるなんてすごいなっ☆
いや、正確には【音】ってところか～？」

見開かれたのも一瞬だけだった。

どう見ても空元気な彼に苦笑いしながら言葉を返す。

『音には敏感なんですよねぇ～、音に嘘を乗せ切るのは難しいから、
そこから虚偽かどうかを判断したりしてましたし』

小さい頃からお偉い方とお会いすることから、
お相手の地雷を踏み抜いて親に迷惑をかけないように、
自分の身を守る術を手に入れるために、
無意識に伸ばした能力が恐らく【音】に関してだったのだろう。

「お前も大変だったんだな～？」

『慣れですよ、慣れ』

「…お前面白いなっ☆
気に入ったっ！名前は！？」

どこに気に入られる要素があったのかはわからないが、気に入られたことは
まあ嬉しいので、自己紹介をする。

『希崎Aです。あ、ちなみにここにいる理由は、幼馴染みに頼まれたものを届けに来たからです。
貴方は…』

「【月永レオ】！敬語も無くていいぞっ☆」

『了解～♪

よろしく、レオさん…♪』

それからは連絡を交換し、音楽について語ったり、お互いのことを話し合った。

私はレオさんのことを仲の良い友人だと思っている。

そして、彼の悩みに気づき始めた数ヶ月後。

私は気づくのが遅かった。

彼は夢ノ咲から姿を晦ましてしまった。