【Aq/ou.rs】君のヒーロー【花/丸】 (ページ6)

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アンコール*「きみがすき」ページ6

ずっと、こうなることを望んでいた。長い前髪の下の、怯えた目の奥の光。それが、自分のものになったら、どれだけ心地よいのか。
　自らが話しかける度、「騙されているかもしれない」という怯えや不安と共に、「助けてくれ」という縋るような感情が混ざっていた。それが、酷く官能的で。

「Aちゃん、起きてる？」
「お、おき、お、起きて、ます」

　ベッドの中で身じろぎを感じて、思わず問いかける。彼女の顔を見れば、更に濃くなった、目の下の隈。
　ああ、かわいそう。
　そう思って手を伸ばせば、ビク、と震える彼女の肩。それに気づかないふりで、優しく隈を指先でなぞってやるといつの間にか目を瞑っていた。

「Aちゃん」

　囁くように、彼女の耳へ囁きを流し込む。かすれたような、色っぽい声が出た。
　胸の前で握っていた両手をさらに握って、肌が白くなっていた。やめさせようと彼女の手へ触れる。何かに怯えているように、小刻みに震えていた。

「…怖いの？」

　落ち着かせるために、背中をなでてやる。一瞬、彼女の頬に朱が走った気がした。どんな顔をしているのか、と前髪をかきわけて、耳にかけてやる。眩しそうに目を細めていた。

「く、く、国木田、さ…。わ、わ、わた、私」

　悔しいのか悲しいのか、彼女の綺麗な目から涙が零れた。美しい、と、思った。

「焦らないで、ゆっくり言えばいいずら」

　ポロポロと涙をこぼすAちゃん。ぼそぼそと聞き取りにくい声も、うつむきがちな顔も、全て愛しかった。
　吃音症のせいで、うまくしゃべれず泣く彼女を抱きしめてやる。はっ、はっ、と荒い呼吸だ。

「大丈夫、大丈夫だよ。Aちゃん」

　いっそう強く抱き寄せれば、ジャラ、と重たい音がして、ベッドの脇から彼女の足枷へと繋がる鎖が落ちた。

_____Fin.