【文スト】平穏な暮らしを望みます 〜十五歳編〜

偽の恋人とお酒と酔い（尚、演技である）　二 ページ17

やがて数分が経った頃、太宰の頭がグラリと傾く。そしてそのまま、Aの肩へと倒れ込んだ。
　なんで机の上じゃなくてこっちに倒れ込んでくるんだろう。
　Aは太宰以外に、誰にも気づかれる事がない様にため息を吐いた。

＊

　赤く染まった頰に、潤んだ瞳。やけに色っぽいそれに、Aは唾をごくりと飲み込んだ。
　あれれ〜。おかしいぞ〜。これ、私じゃなくて太宰君が襲われるんじゃ無いか〜？
　前世で腐女子であった頃のAが興奮気味に頭の中を暴れ回る。それをグッと抑え込んで、もう一度太宰の顔を見た。そしてその演技力に素直に拍手を送りたくなった。
　
　だが一つ、如何してもいただけないことがあった。
　Aは理解している。太宰がわざわざ自分の肩に頭を預けた訳を。大方、照れて慌てふためくAの反応が見たかったのだろう。
「Aちゃん、如何しよう。僕、酔っちゃったみたいだ……」
　トドメとばかりに、ふにゃりと笑いながらAの首筋にグリグリと額を押し当てる。
　正直に言おう。辛うじて顔には出ていないが、もうAはやばい事になっている。何がやばいって、母性やら気恥ずかしさやらが身体中を暴れ回って叫び出しそうなのだ。
「Aちゃん？」

　ああああ！！！！ こうなったらヤケクソだい！ 彼氏(偽)が可愛い系で攻めてくるのなら、大人な感じの彼女(偽)を全うしてやる！
　Aは太宰の肩にそっと手を乗せた。

＊

　「太宰君、可愛いね」
「……え」
　Aは少しだけ肩を押す。再び太宰の赤く染まった顔が目に映った。そしてそのまま、ゆっくりと彼の顔に自分の顔を近づける。
「お酒に酔うと、太宰君はこうなるんだね。知らなかったなぁ。本当に可愛い」
　あ、れ。なんか僕の思ってた反応と、違うのだけ、ど……。
　太宰は珍しく困惑しながらAを見つめた。あと少し顔を動かせば、キスが出来そうな程までに距離が近い。
「……本当に、凄いと思います。今、誰かに見られてる状態じゃなければ、素直に称賛して拍手を送っていたかと」
　Aは演技を続けようと思っていたが、太宰の名演技に思わず素で褒めてしまう。

　太宰はピシリと固まったが、視界の端に映る男を目に映すと、再びAの首元に顔を寄せた。
「来たよ、Aちゃん」

　「失礼、お客様。彼氏様の方、随分と酔われているみたいですね。周りの目線が気になる様でしたら、地下にある部屋へご案内しますよ」

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