【文スト】平穏な暮らしを望みます 〜十五歳編〜

断じてカップルではない ページ12

「帰らないんですか」
　Aは先程の陰鬱とした雰囲気のまま太宰に問いかけた。彼は全て食べ終わっているからもうこの場に残る理由はないし、残っていてほしくもない。Aは残りのお昼ご飯を穏やかな気持ちで食べたいのだ。
　だが、彼が目の前にいる限り『穏やかに』食事を取ることなんて出来ない。「帰れよ」と云うAの圧を無視して、太宰は云った。
「酷いなぁ、僕達は一緒に昼食を食べに来たのに帰れだなんて。それに僕、まだ此処でやることあるし」
　『一緒に』じゃない。太宰くんが勝手についてきただけでしょ。
　そう云いたかったが、云ったところで太宰がどうもしないのをこの短時間でAはすっかり理解してしまった。

　彼女は黙って残りを食べることにした。

＊

　「やっぱりあそこの席に座ってる学生さん達、綺麗な顔してるわねぇ」
「カップルかな」
「すげぇや……美男美女カップル……」
　ふとAは周りの席に座っている客のそんな声を聞いて、ピタリと動きを止めた。
　他の客は少し興奮状態にあるのか、声を抑えようとしていても抑えきれておらず、こちらに会話は丸聞こえである。
　カップル？ 太宰君と？ …………冗談じゃない！
　名前は「如何にも不満たっぷりです」と云うことを伝えようとして、表情筋をフルに稼働する。眉間に深い皺を寄せ、口をへの字に曲げた。
　
　だがそれもAの飲み物を取って、ストロー口を彼女の口内に突っ込まれたことで終わってしまう。ほんの少し唇がヒリヒリして痛い。
「はーい、折角綺麗な顔してるのに、不細工な顔をしなーい」
　Aは太宰を睨みつけたが、そんなこと彼には何処吹く風だ。
「いやぁ、それにしても照れちゃうなあ。側から見たら僕達、恋人同士に見えるらしいよ。それに、美男美女の」
　Aは顔が整っているのを自覚しているが、変に謙遜したり、逆に調子に乗ることはない。太宰も自分がイケメンであることは自覚済みだが、褒められれば悪ノリするタイプの人間だ。
「白々しい。胡散臭い」
　未だに照れたように顔を染める太宰に向かってAはそう云った。

＊

　「そうだ、さっき『此処でやることがある』と云っただろう。君に云いたいことがあってね」
　Aは太宰を見る。なんだか猛烈に嫌な予感がする。

　「君には、ちょっとした手伝いをしてもらうから。因みに拒否権はないよ」
　
　

校門前のイケメンと人集り→←善人ではない

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す