善人ではない ページ11
「いやぁ、それにしても助かったよ。実はあの橋に行く前に別の川で入水しててね。財布が流されたものだから困ってたんだ」
Aはもう突っ込まないことにした。黙々とバーガーにかぶりついて彼の話を聞く。
「にしても、君は偽善者……ではないけど善人ではあるよね」
ふと思い立った様に太宰がそう云った。「私にバーガー奢ってくれたし。とってもいい人だ」と後に付け加える。
奢りたくて奢った訳ではないと云おうとしたが、太宰に影が差したように思たので思わず口を閉じてしまった。そして代わりの言葉を紡いだ。
「善人……ですか?」
「うん」
太宰は肯定する。彼はお茶を全部飲み切ったらしく、蓋を開けて中にある氷を口の中に含んで噛み砕いた。気づけば彼の食べ物は、フライドポテト数本しかない。
「まるで僕とは真反対だ。誰かの為にと行動して、他人に殺意とかは向けなさそう。人を殺すことに酷く抵抗がある。Aちゃんはそんな感じの子でしょ?」
それは裏を返せば、自分は人を殺すのになんの抵抗もないと云っているのも同然だった。だが太宰はそんなことを周知の上で、Aを試すかのような視線を向けた。
Aが自分にどんな感情を向けるのか、それを見ようと思っていたのだ。恐怖か、将又蔑みか。
「私、殺したい程恨んでいる奴はいます」
しかしAはそんなことを微塵も気にせずに、太宰が彼女に抱いた印象の訂正を行なった。太宰は珍しくも、ほんの少し面食らった様子だった。
*
「へぇ」
「まぁ、今の平穏な生活を送っていたいので態々探し出して殺すようなことはしませんが。ですがのこのこと私の前に姿を現すようなら殺します」
太宰は彼女のことをじっと見つめる。殺せるか殺せないかは兎も角として、Aから漏れ出す殺気は本物だった。
「そこまで君に恨まれる相手は、一体何をしでかしたのかな?」
太宰は純粋に疑問に思ってそう聞いた。だがAは答えようとはしなかった。
「それは秘密です。言いたくないし思い出したくもありません。でも忘れられないんですよねぇ」
そう云って彼女は頬杖をついて太宰から顔を逸らした。太宰はその横顔をじっと見つめていた。
*
それに幾ら気を楽にさせるためとは云え、大切な人に支配の悪魔の能力を使った私は、善人じゃない。未だにあの時の選択が正しかったのかも判らない。
Aのその特徴的な瞳に影が差したのを、太宰は目の前で見ていた。
断じてカップルではない→←自己紹介。薄々感じていた違和感の正体に気づく
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息抜き(プロフ) - 黒猫さん» 結果主人公の心情優先で書いて、場面を飛ばし飛ばしにしてた箇所もあったのですが、上手く伝わっていた様で良かったです……。続編も更新頑張りますね! コメント有難う御座いました! (2022年12月25日 23時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 初めてのコメント失礼します!読みました!すごく面白かったです。文ストを見ていてチェンソーマンは少ししか見てないのですが、それでも場面の情景が鮮明に想像できました。毎日読みたいくらいハマりました!十五歳編完結おめでとうございます。更新頑張ってください! (2022年12月25日 21時) (レス) @page50 id: 68362437f9 (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - 温泉煮卵!さん» 有難う御座います! 十六歳編、色々と準備してる段階なので気長にお待ちください……。 (2022年12月25日 10時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
温泉煮卵!(プロフ) - 十五歳編完結おめでとうございます、十六歳編の更新も待ってます!蘇生のシーンとか、特に楽しみです…! (2022年12月25日 0時) (レス) id: 61be09a0bb (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - えむさん» コメント有難う御座います! 頑張りますね! (2022年12月6日 2時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:息抜き | 作成日時:2022年11月3日 3時