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音を拾って、奏でて、それを観客に伝える。
Aは昔からそれが得意だった。
そしてそれは、その長所は、今存分に発揮できている。
ジャンプに関しては点を獲りにいく構成だが、このプログラム全体としては、ただただ作品として成り立たせるのがゴールだ。
ちさがこれを観たときに何かを感じてくれたら、もう充分である。
そしてそこは、Aも同じ思いだった。
現に、このステップの中には分かりやすいジャッジへのアピール部分を1つも入れていない。
ジャッジにわざわざアピールしなくとも、伝えるべき相手がAにはいるのだ。
演技後半、曲調が変わったタイミングでステップからジャンプへの軌道にのるためにスピードが上がっていく。
ターンでもクロスでも加速できるのは、やはりスケーターとして強みである。
そこの部分で演技構成点を稼ぐことができるし、何よりプログラム内の流れを途切れさせることなく、観ている側を飽きさせない構成を作ることができる。
3+2のループループを確実に決めると、音の高鳴りに合わせてフライングシットスピンに入る。
後半に2本ジャンプを入れるなら、続けて跳んだ方が確率は上がるかなと思ったけれど、曲の構成的にはここでのスピンがしっくりきた。
ちなみに、冒頭で助走なし2Aを降りたおかげで、ラストのパートは時間的にすごく余裕がある。
フライングシットの直後にジャンプを跳びにいくのは体力的に相当リスキーだったから、所謂(いわゆる)休憩パートをラストに少しだけ入れた。
「ここで休憩を作るなんて今更感ありますね」なんてAには言われたが。
無事にサルコウも着氷させると、温かい拍手に包まれる中最後のコンビネーションスピンに入る。
「正直、ジャンプよりスピンの方がこっちは緊張すんだよなあ」
回転数を数えつつ、そんなことを口走る。
ジャンプは正味、踏切から着氷まで2秒くらいで終わるが、スピンはそれより遥かに長いし、そもそもA本人に苦手意識がある。
入りでミスったらそれ以降ずっと難しい姿勢で耐えなければならないし、選手らはマジよくやってるわ、と思う。
そんな俺の不安をよそに、Aは最後まで気を抜かず、ノーミスでこのプログラムを演じ切ったのだった。
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作者名：たこやき | 作成日時：2023年3月11日 12時
