ウタカタノオト3 (ページ21)

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ショートの曲は「田園風間奏曲」。

オーボエの音色が好きな“ちさ”の選曲だ。

俺もAも、ちさからのリクエストがない限り知らなかったような曲だから、どこからこれを拾ってきたのか定かじゃなかった。

でも、聴いてすぐに「この曲にします」とAが即決したくらいには、豊かで力のある曲だと思う。

ショートで使うなら2分半くらいには収めなきゃならないので、「音楽的にこの部分はほしい」とか「音と音の繋がりが変」とかいう要望にはいちいち応えてられない。

ということで、曲の編集はこの曲をリクエストしたちさ自身にお願いした。

なのにちさが「パソコン分かんない」とかほざくので、結局俺が編集しつつ、横でAにイメトレしてもらいながら共同作業で終わらせたのが、今やもう懐かしい。

ちさもAも、なんなら羽生もだけれど、音にこだわりがあるやつらは、やはりちょっとめんどくさい。

そんなことを思い出していると、Aが2Aを着氷させた。

瞬間、会場はざわめいた。

助走もなく、スタートポジションからそのまま跳んだのだ。素直な反応だろう。

フィンランディアでは確実性を重視していたから助走つきだったのを、今回に向けて変えてみた。

せっかく地上波で放送されるのだから、意外性も取り入れるべきだろう。

スピードがないながらも降りたAはそのままキャメルスピンに入る。
レベル4を獲れる構成で練習したから、ちゃんと認定されることを祈りつつ、細かい音まで拾えているAに感心した。

スピンは苦手と言っていたけれど、しっかり加点をもらえるくらいには着実に上手くなっていると思う。

宮原を手本にして、スピンの練習量を自ら増やしただけある完成度だ。

そして流れるようにステップに入った。