ウタカタノオト3 (ページ16)

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#底知れぬ影響力ページ16

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「A殿」

「改まってどうした、さっとん殿」

「記者会見を笑いと困惑の独擅場にしてどうする」

さっとんの一言に、喉まで行きかかっていた水を吹き出しそうになる。
そんな場所にする意図など微塵もなかったし、そもそもなってすらいないのだけれど。

これまたコーチからは聞かされていなかったのだが、女子の公式練習終了後、日本選手の記者会見が行われた。

日本選手なので、もちろん私も参加だった。

人前でどんなことを話したらいいかなんて私が知るわけもなくて、多数のフラッシュの光に頭痛が走った。
それでも淡々と、次から次へとくる質問に答えるという作業を私なりに全うしたつもりだ。

何時間も拘束されるような流れではなく、それ自体は30分程度で終わった。

慣れない雰囲気だったし、記者会見なんて生まれてこの方初めてだったから、終わった今解放された感が身体中に満ち満ちる。

会見室を出て大きく伸びをし、明日から始まる競技会に思いを巡らす。

さっとんはそんな中話しかけてきた。

「羽生いなかったから、その分お前に質問が飛んだんだろ」

その一部始終を見守っていたであろうコーチが軽く言い放つ。

まだ公式練習以降、姿を見せていない羽生さん。負った怪我の治療のために、記者会見は欠席した。

当たり前だろうけれど、メディアの方々は羽生さん目当てがほとんどだったっぽい。
開始早々、同じような内容の質問が続き、レパートリーが少ないことを悟ったのだ。

彼の影響力は、こんなところでも知らされる。