ウタカタノオト3 (ページ11)

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男子の公式練習が始まるタイミングはすぐに分かった。

身体を温め始めていたからリンクを注視していなかったけれど、カメラのシャッター音やらザワザワ感やらが空気を変えたのだ。

「あ、羽生さん来た」

羽生さん含め数人がリンクに登場する。

あ、もう何か違う。

滑り出しの勢いとか、スケーティング1歩1歩の伸びとか、1人だけ違う。

気づいたら目で追ってしまっていた。

「上手いなあ」

「お前見るのはいいけど身体冷やすなよ」

「羽生さんを目の前にしてなかなか酷なこと言いますね」

リンク上の彼から目を逸らさず受け答えする私に「この後一応練習あるかんな」とコーチ。

まあ確かに身体は冷えたら困るので、視線は動かさないまま屈伸運動を始めた。

身体をほぐした彼はしばらくして、4回転ジャンプを次々と着氷させた。

連続トウループ、サルコウ、ループ。

初練習にしてはバンバン降りていくなあ。

氷との相性を“確認する”というより、「よし、降りれるな」という“確信を持たせている”ようにも感じる。

試合慣れしているんだろうなあ。
そこはさすが王者、というべきものだろう。

「もうすぐ始まるから、そろそろ移動すっぞー」

「はーい」

と、順番に曲かけ練習が始まる中、羽生さんがまたジャンプの助走に入った。

お、ルッツかな。

これ見たら私も準備しなきゃ。

瞬間、彼は強く氷を蹴った__________