なんで、 ページ35
…ザンッ、という肉が斬れる音。バタバタと、人が倒れる音。その音に顔を上げて、私は目の前で起きている状況を把握しようとする。すると。
「…沖田、隊長…?」
…そこには、彼が立っていた。
…酷く掠れた声だった。秋の乾燥した風にすぐに掻き消されてしまいそうなほど、掠れて、小さくて、弱々しい声だった。そんな声で、私は彼の名前を口にした。まるで、私を護るように敵の前に立ち塞がった沖田隊長。多分そんなことはないのだろうけれど。
…そんなことよりも。
「…なんで、貴方がここに居るんですか…?」
…どうして、この人がここに居るのだろうか。てっきり、あれから自室なり公園なりでサボりを遂行していると思っていたのに。さっき、私は彼に、少なくとも上司に言うべきではない言葉をぶつけたのに。
…彼は私を、嫌っているはずなのに。
「…別に、たまたま通りかかっただけでィ」
彼はいつもと同じような、冷たい声でそう言う。けれど、こんな、江戸の中でも治安の悪い場所で、公園も、サボれるような所なんて何もないような所で、たまたま通り掛かることはあまりないように思えた。
「…ほォ…」
と、呆然と彼の背中を見つめていれば、男はニヤリと笑って言う。その声には何処か、焦りのようなものが含まれているように思えた。
「…真選組一番隊隊長、沖田総悟殿じゃァないか。お目に掛かれて光栄だ」
「そりゃどーも」
沖田隊長は刀についた赤い液体を振り払いながらに淡々と言う。まるで、世の中で起きる全ての事柄がどうでもいいのだと言うように。何の興味もないような声。
けれど。
「…っ!」
…沖田隊長から発されている、雰囲気のようなものが、とてもピリピリしていた。殺気をその身に纏っているかのような、この場を血の匂いで埋め尽くしていくかのような。それに背中に冷や汗が伝っていく。声と雰囲気との温度差に、私も連中も怖じ気づいていく。
「…貴殿がここに来たと言うことは、」
その部下を助けにでも来たのかな、と。無理矢理に吊り上げた口でそう言った。何処か演技じみている台詞を、隊長はハッ、と鼻であしらった。
「何度も言わせんな、俺ァここを通りかかっただけだ。…ま、折角こんな場に立ち会ったんだ」
…一呼吸おいて、隊長は言う。
…ドスの効いた、怒りのような、多分、黒い感情を乗せた声色で。
「……テメーら全員、叩きのめすことにすらァ」
…その言葉を合図に、連中は沖田隊長に飛びかかった。
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ゆきふく(プロフ) - 好きすぎて2週目に入りました。またお世話になります。笑 (2月9日 15時) (レス) id: c898271006 (このIDを非表示/違反報告)
雨散 - ああああああああああああああああ (2019年8月5日 14時) (レス) id: c6b3012422 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか - 私は沖田さんになんてことを........ (2019年3月29日 15時) (レス) id: 544b2fa555 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ちあきさん» ちあきさん!ありがとうございます!!返信が遅れてごめんなさい!!一巻の沖田さんはツンデレが大きく出てますね(笑)甘々な沖田さんがこれから出てくるかと思われるので、甘い彼もご堪能くだされば幸いです!!お楽しみくだされば嬉しいです!! (2018年6月1日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ちあき(プロフ) - 沖田くんのツンデレええですね(笑) (2018年5月12日 22時) (レス) id: 3135ea492c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年9月11日 17時