願い事 ページ16
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家に帰ってもなんとなく眠れずに
ベランダに出てタバコを吸っていた
「……翔くん？」
不意にAの声がして振り返った
「どうした，起きちゃった？」
「本読んでたんだけど，喉が乾いてキッチンに来たらリビングのカーテンが揺れてて何だろうって…」
「うん…ちょっと一服」
「ね，私も外出ていい？」
「いいけど…」
嬉しそうに靴を取って戻って来たAは
俺の隣に並んで手摺にもたれ，空を見上げる
「東京も星が見えないねぇ」
「まあな」
「おばあちゃんちで見た星は綺麗だったよね」
「あぁ」
風が不意に2人の間を通りぬけていく
使っているのは俺のシャンプーと俺のボディソープな筈なのに
Aから香ってくるだけでこんないい香りなのは何故
寝巻きにしているんだろうノースリーブのワンピースから覗く肌が，
月明かりに妙に艶めいて見えて眼を逸らした
だからダメなんだって
あんまり長く一緒だと心乱れちゃうんだってば
気づかれないようにまた，小さくため息をついた
「なぁ，A？」
「ん？」
「少なくともここを出てくまではさ，」
「うん」
「あんまり気ぃ遣わなくていいよ」
「……え？」
「俺がいるからって部屋に籠ってなくたっていいし，
俺の飯の心配しなくても起きて待ってなくてもいい。
妹と住んでるようなもんなんだから，気ぃ遣われるとこっちも気ぃ遣う」
「……うん」
『妹』って敢えて強調して言ってみる
まるで自分に言い聞かせるみたいに
「ま，もしね？Aが飯作る予定があって，一人分でも 二人分でも変わんないって言うなら教えて？
俺も食うか食わないか早めに返事するようにする。OK？」
「わかった」
「Aからは？なんか要望ある？」
「……ひとつだけ，お願いと言うか…我儘聞いてほしい」
「ワガママ？……それは内容による(笑)」
「ふふ，じゃあ言うだけ言ってみる」
「はい，どうぞ」
「翔くんが帰れない日ね。すごく遅くなる日とか。
１分だけでいいから声が聞きたい」
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