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「おいなにこそこそ話してんだ!」
突然レジの横で見張っていた一人がこちらに気付く。
そちらの方を向くと、強盗仲間の一人が夜勤の男の首にナイフを突きつけていた。
「なんか変な素振り見せたら、こいつの首かっ切るからな!」
「ひっ……ぶ、ブラームスさん……」
私はどうしたらいい。
青ざめた私の顔を見たベトは、少しずつ私を拘束する縄に顔を近づけている。
「……貴様も抗え」
「……え」
「抗う事をおそれるな。
この絶望的な状況から、藻掻き苦しみ、そして、希望の光を見いだせ。希望の光は、貴様の心の奥底にも潜んでいる。決して諦めることのない、情熱を私に見せろ」
「何を……」
犯人から見えない位置に移動すると、ベトは縄に噛みついた。
プチ、プチと繊維の切れる音がする。
「おいだからこそこそすんなって……」
「フンッグッ!!」
次の瞬間、両手が軽くなった。
つい腕を上げると、それに気がついた犯人が立ち上がる。
「見せろ!! この私に!! 貴様が捧げる、情熱を!! この暗闇から抜け出す、希望を!! 貴様の生きる理由をッ!!」
一秒、一瞬。
思い出した。
私が長い時を掛けて作り上げた、最高の『交響曲』を。
若い時、満ちあふれていた、音楽への情熱を。
私はヨハネス・ブラームス。
ベートーヴェンの音楽を正当に受け継ぐ、最高傑作を作り上げた。
「liefern Sie meine Musik!」
____________End?
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