検索窓
今日:15 hit、昨日:10 hit、合計:31,224 hit

ページ26

________



勤務終了の2時間ほど前。


「ヨハネスさん本当にいい人だよねえ」
「ほんと、マジいい人ー」
「でもなんで定職じゃなくてここのバイトなんだろう」


それな! の大合唱。
そして大きな笑い声がする。

バイトの休憩に上がったところで、まさかこんな話を聞いてしまうとは思っても見なかった。
こんな話と言っても自分の話なのだが。

私だって定職に就きたいし、もう少し割の合う仕事がしたい。
深夜の酔っ払いを追い払ったり若いヤンキーくさいお兄ちゃんの迷惑行為を注意したり。
それら全て、唯一男で夜勤が出来る私しか行っていない。
まあ、女性に被害が及ぶよりははるかにましだ。

逆ギレされて力強く引っ張られた二の腕には、まだ跡が残っている。
ため息をつきながら、バックヤードの関係者専用の部屋の扉を開けた。


「あ、お疲れ様でーす」
「いやー今日も大変だったねえ」
「……いえ、大丈夫ですよ。いつもよりは迷惑行為がありませんでしたし」
「それなー。なんか最近、あのヤンキー達ちゃんと言うこと聞くようになったよね。ヨハネスさんパワー?」


まるで手から謎の力を放出するような動きをすると、他の二人もケラケラと笑う。
完全に疲れ切った私はそれに力なく笑うことしか出来なかった。
さっきまで廊下に聞こえていた会話の内容について、私に尋ねることもなくバイトは終わりを迎える。


帰り道。
歩いて帰る途中、ふと、曲がり角のミラーを見た。
映っているのは、歪んだ私の顔と周りの風景だけだ。

私は今、何をしている?
何のために生きている?
何のために、もう一度生まれた?

尽きない疑問の答えをぐるぐると考える度に、何かを思い出しそうで思い出せなくなる。

この世で生きていくためには、周りにとって迷惑ではない人間を演じなければならない。
しかしそれは本当に自分なのか。
私は、本当にそれでいいのか。


ただその言葉だけが堂々巡りしていた。



___________

・→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (29 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
14人がお気に入り
設定タグ:クラシカロイド   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:甘味ちょこ | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2017年4月9日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。