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良い風呂でした、と言う前に、女の子の方が口を開いた。
「あ、えっと……私は音羽歌苗です。この音羽館の大家をしています」
「大家さん……若いのに大変だね」
「ええまあ。お父さんのせいで余計に大変なことになってますが……。で、こっちが」
「僕はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト! モツでいいよ! さっきはごめんねー、シューくんと間違えて!」
モーツァルト。
……モーツァルト?
気軽に人に衝突してくるこの男が?
「あ、信じてないでしょ? でも僕本当にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトだからね!」
「……あ、ああっ! ごめんなさい、少しぼーっとしていました……どうぞよろしくお願いします」
シューベルトの時と同じように、普通に握手をする。
「で、君は?」
「……私は、ヨハネス・ブラームス。何と呼んでもかまわない」
「ヨハネス・ブラームス! じゃあ今度から、よっちゃんって呼ぶね!」
「イカじゃないんだから……」
へらっと笑ったその顔は、純粋な少年を思わせる。
力なく笑い返すと、それじゃあまた、と言って大家――歌苗と共に二階へ戻っていく。
……私は、その場に座り込んだ。
尊敬しているモーツァルトがこの世にいる。
私と同じように、もう一度生を受けたのだろうか。
だとしたら。
私は彼と同じ経緯でこの世にもう一度現れたのではないか。
しかし、何のために?
どうして私は、二度目の生を受けた?
第1話 End
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