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部屋に着くと、ウィステリア・レインはベッドまで連れて行ってくれた。
コウ・クルススは、部屋のベッドに腰掛ける。
最早、前を見ることさえ辛くて、俯いてただただいつもより幾分か早い呼吸に身をまかせる。
その時、ひたいに冷たいものが当たった。
「…ひどい熱だな。」
よくここまで来れたよね、とウィステリア・レインは笑った。
ひたいに当てられた彼の手は、異様に冷たい。
ひどい頭痛をこらえて、ウィステリア・レインの方を向く。
「お前もまだ治っていないな。」
ウィステリア・レインは、クールに微笑む。
「私はもう、大丈夫だ。クルススは、自分の心配をしたほうがいいんじゃないか。」
彼は、息をつくと話し始めた。
「心臓病の魔法を、かけられた。」
「…。」
「だが、魔力が弱かったから、私は軽症で済んだんだ。」
コウ・クルススは、ベッドに腰掛けたまま、話す。
「治癒を使ったのか。」
治癒とは、まぎれもない零の魔力のことだ。
「いや、彼女の魔法は、基本的に病気には効かないから。」
どこか切なさを残して、遠くを見る。
「私は、妻に頼りっぱなしな男だ。」
妻、という言葉から、彼女はやはり、彼の伴侶ということがわかった。
「妻は、私を何度も救ってくれた。でも、私は彼女に未だ救いの手さえ差し伸べていない。」
コウ・クルススは、あまりに悲しそうな彼を見て、頭痛が吹き飛ぶ思いだった。
「いつか、くる。そんな日が、必ず。」
ウィステリア・レインは、大きく目を見開く。
そして、笑った。
「ありがとう。」
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作者名:N | 作成日時:2017年3月19日 23時