story75 ページ36
お婆さんと男の子に改めて深く感謝を伝えてから、杯戸病院を後にした私は、今度はその足でポアロに向かった。
夕方のポアロの客足はまばらで、カウンター席には誰も座っていない。
私が店内に入ると、初めて会ったあの日のように、安室さんは洗い終えた食器を拭いていた。
「おや。Aさん、いらっしゃいませ」
「こんにちは、安室さん。コーヒー、ブラックで」
かしこまりました、と安室さんが言い、私はカウンター席に腰掛ける。
安室さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、今日の出来事について思案した。
「安室さん」
「はい、なんでしょう」
「アカイシュウイチについて何か分かりました?」
安室さんは食器を拭く手をとめず、いいえと答える。
「すみません、まだ何も」
「そうですか。安室さんも案外使えませんね」
「………随分手厳しいですね」
使えないと言われたことにこの好青年でもさすがにむっときたのか、安室さんは苦笑いを浮かべたが、目は笑っていない。
「僕に任せてくれと大見得切った割には、仕事が遅いと思っただけですよ」
「返す言葉もないですね」
「本当に調べてますか?」
「もちろんですよ。どういう意味です?」
私はため息をついてコーヒーカップを置く。
「私、安室さんを信頼してこの件をお任ししているんですよ。あんなに熱心に愛を囁かれたので、すぐにでもアカイシュウイチを見つけてくれるって思ってたのに。がっかりです」
「もう少し待ってください。必ずご期待には添えるようにしますから」
安室さんが、カウンターに置かれた私の手に自分の手をそっと重ねる。
「私、仕事ができない男は嫌いですから」
安室さんの褐色の腕を見つめて、私は呟く。
「心得ていますよ」
私と安室さんはしばらく見つめあった。
私はゆっくりと安室さんの指に自分の指を絡める。
安室さんが、少し驚いたような顔をした。
「……本当はもう、見つけたんでしょ? アカイシュウイチを」
819人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
トリップしたらシルバーブレッドが敵だったなんて聞いてない3【名探偵コナン】
トリップしたらシルバーブレッドが敵だったなんて聞いてない4【名探偵コナン】
もっと見る
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みそ - 沖矢さんにめっちゃキュンキュンされます…この作品を作って下さって本当にありがとうございます!!9も頑張ってください! (2018年2月12日 0時) (レス) id: f05c3c7162 (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 百合さん» ありがとうございます!! 頑張って更新します! (2017年12月13日 7時) (レス) id: b25d192faf (このIDを非表示/違反報告)
百合 - すごく面白いです(*^-^*)続きが気になります!頑張って下さい!(*´∀`) (2017年12月12日 23時) (レス) id: 664152f9a6 (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - ムーンさん» 毎日読んでくださりありがとうございます!! 一位なんて嬉しい!! これからも頑張ります! (2017年12月9日 21時) (レス) id: b25d192faf (このIDを非表示/違反報告)
ムーン(プロフ) - 毎日毎日更新されたのを楽しみにしながら見てます!この作品今のところ私の好きな名探偵コナン夢小説1位です!!これからも続編頑張ってください! (2017年12月9日 20時) (レス) id: 257ddb25d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:海星 | 作成日時:2017年12月6日 23時