story71 ページ32
波土のリハーサル事件から数日後、熱も下がった私は、アカイシュウイチ探索を再開しなければならなかった。
このまま一生、元の世界に帰れないのは困るのだ。
「今日は仕事に行ってきます」
朝食の卵焼きに箸をつけ、私はいちおう沖矢さんに知らせておく。
ちなみに食事は沖矢さんの担当なので、この卵焼きも沖矢さんが焼いた。
ちょっと焦げてるし、味も薄い。やっぱり煮込み料理以外はダメみたいだ。
「もう一日、安静にした方がいいと思いますが」
「ダメですよ。仕事が終わりませんから」
「仕事が終わったら、米花町から出て行くおつもりですか?」
沖矢さんの言葉に、少しドキッとする。
そうか。仕事が片付いたら、コナン君とも安室さんとも、蘭ちゃんや園子ちゃん達とも、もう二度会えなくなってしまうわけで。
今、目の前に座っている沖矢さんとも、こうやって喋ったりご飯を食べたりすることもなくなるのだ。
そんな当たり前のことに、いまさら気づかされる。
「まあ、そうですね」
自分の心の内にチラリとよぎった、妙に未練たらしいものを断ち切るように、さらりと肯定した。
会えなくなって好都合じゃない。名探偵がうようよいる世界で暮らすなんて、私には絶対無理なんだから。
「寂しいですね」
味噌汁をすすりながら、沖矢さんが呟く。
「そうですか?」
「ええ。寂しいですよ」
あっさりと沖矢さんは頷いた。
それはどういう意味なんだ。寂しいって、何が? どうして?
ぐるぐると頭の中で言葉が回る。
「まあでも、米花町にいないってだけで、会おうと思えばいつでも会えるし」
不意に自分の口から飛び出した言葉に、自分で驚く。
会おうと思えばいつでも会えるって……そんなの嘘なのに。
どうしてそんな嘘、ついたんだろう。
「ごちそうさまでした。じゃあ行ってきます」
寝坊した私のせいで、今日の朝食は少し遅めのブランチになってしまった。
立ち上がって壁にかけられた時計を見ると、もう10時過ぎだ。
「いってらっしゃい。気をつけて」
沖矢さんが、玄関まで見送ってくれる。
お辞儀してそれに答え、屋敷を出ると、背後でゆっくりと閉まるドアの音が聞こえた。
819人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
トリップしたらシルバーブレッドが敵だったなんて聞いてない3【名探偵コナン】
トリップしたらシルバーブレッドが敵だったなんて聞いてない4【名探偵コナン】
もっと見る
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みそ - 沖矢さんにめっちゃキュンキュンされます…この作品を作って下さって本当にありがとうございます!!9も頑張ってください! (2018年2月12日 0時) (レス) id: f05c3c7162 (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 百合さん» ありがとうございます!! 頑張って更新します! (2017年12月13日 7時) (レス) id: b25d192faf (このIDを非表示/違反報告)
百合 - すごく面白いです(*^-^*)続きが気になります!頑張って下さい!(*´∀`) (2017年12月12日 23時) (レス) id: 664152f9a6 (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - ムーンさん» 毎日読んでくださりありがとうございます!! 一位なんて嬉しい!! これからも頑張ります! (2017年12月9日 21時) (レス) id: b25d192faf (このIDを非表示/違反報告)
ムーン(プロフ) - 毎日毎日更新されたのを楽しみにしながら見てます!この作品今のところ私の好きな名探偵コナン夢小説1位です!!これからも続編頑張ってください! (2017年12月9日 20時) (レス) id: 257ddb25d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:海星 | 作成日時:2017年12月6日 23時