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 大通りに植えられたソメイヨシノが、車道にまで枝をのばしている。その枝に少し早く咲いた白い花弁たちを、風が優しく揺らしていた。

 大きなボストンバッグには、着替えやら日用品やらが詰まって重たかった。
 肩からずり落ちそうになるそれをぐいっと持ち上げ、ため息をついてのろのろと歩き出す。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 春のうららかな陽気にそぐわないこの鬱屈とした気持ちを、どう晴らせばいいのか、まるでわからない。
 そもそも永遠に晴れないのではないかという絶望さえ頭をよぎる。

 ああ、どうしてどうして。

 何度繰り返したかわからないその疑問を心の中で呟いていたら、すぐ前方から、「いてえよくそばああ」という罵り声が聞こえてきた。
 どうやらお婆さんが前からやって来た若い男にぶつかったらしい。見るからに足腰が悪そうなそのお婆さんは、杖をついているのによろよろとしている。

「ごめんなさいねえ。足が悪いもんで」

 眉を八の字にさげ、申し訳なさそうに謝るお婆さんに、しかし若者は容赦ない。

「謝ってすむならケーサツはいらねえっつの。おら、てめえのせいで服が皴になっただろうが」

 なんて言いがかりだ。
 わたしは呆れて男を見つめたが、男はおばあさんのすぐ後ろにいるわたしには気が付かずに、ひたすらお婆さんを罵っている。

 道行く人々は一瞬だけ足をとめるのだが、いかにも人相の悪い男にかかわりたくないのか、おばあさんにチラリと哀れみのこもった一瞥を投げかけるだけで立ち去っていく。

「おい、謝ってねえで金だ金。このジャケット二十万したんだ。弁償代と迷惑料で倍額だな」

「そ、そんなお金持ってないわよ」

「銀行に行きゃ、あるだろうが」

「ちょっと、そこの君」

 ぴくっと男の肩が震えた。
 わたしは二人に歩み寄って、おばあさんをかばうように間に立ち塞がる。

「とんだふっかけもたいがいにしなさいよ。ちょっとぶつかったくらいで皴なんかになるわけないでしょ」

「はあ?」

「おばあさん、こんな奴の言うことなんて聞かなくていいからね」

 わたしがおばあさんに話しかけると、男がおい、とすごんだ声を出した。

「勝手にしゃしゃり出てくんな。なんだお前。引っ込んでろよ」

「あなたこそ何なの? おばあさんは足が悪いようだし、べつに広い道でもないんだから、ぶつかるくらい仕方ないじゃないの」




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あやちゃん(プロフ) - 海星さん» 面白くて何回も読ませてもらっています!続きがくるのを楽しみにして待ってます! (2020年3月27日 20時) (レス) id: 60d90b2065 (このIDを非表示/違反報告)
- あの、ずっと更新停止されてますが大丈夫ですか? (2020年1月13日 7時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
- そうだったのですか…。安心いたしました!テスト頑張ってください^^ (2019年11月27日 18時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 桜さん» 心配していただいて、ありがとうございます…今テスト中で。更新がゆっくりになってます。すみません! (2019年11月27日 16時) (レス) id: 4bcc115d21 (このIDを非表示/違反報告)
- 最近、更新がありませんが体調など大丈夫でしょうか?とても心配です…… (2019年11月27日 0時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:海星 | 作成日時:2019年11月9日 13時

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