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「よければ病院まで送るよ」
萩原さんが親切にもそう言ってくれた。だが、あいにくわたしには重要な予定がある。
腕時計をちらりと見た。あと数十分しかない。それまでに申請を済ませないとすべておじゃんになってしまう。
「いや、いいです……行かなくちゃいけないところがあって」
「もしかして……入学式かなんか?」
萩原さんに尋ねられ、少し驚いて目を見開く。
「まあそんな感じで。よく分かりましたね」
「そんなでけぇボストンバッグ提げてたら、この季節、上京してきた大学生って推理は妥当だろ」
また横から馬鹿にしたような松田さんの言葉。もう無視、無視。
わたしはボストンバッグを拾い上げて立ち上がった。一瞬くらっと視界がまわったが、なんとか持ち直す。
萩原さんが慌てたようにわたしの腕をつかんだ。
「動かない方がいいって。マジで結構腫れてるよ?」
「大丈夫です」
「いやでも……」
食い下がる萩原さんを振り切って、わたしは三人に背を向ける。
「もう行きます、すみません」
「え、あ、ちょっと」
「助けていただいてありがとうございました! おばあさんも気を付けてね!」
一度だけ深くお辞儀してから、わたしはまだ痛む体に鞭打って、駆け出した。
背後で何か叫ぶ萩原さんの声が聞こえた気がしたけれど、もう振り向いていられなかった。
四月。
桜が導く、出会いの季節。
わたしと君たちの物語は、ここから始まる。
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あやちゃん(プロフ) - 海星さん» 面白くて何回も読ませてもらっています!続きがくるのを楽しみにして待ってます! (2020年3月27日 20時) (レス) id: 60d90b2065 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - あの、ずっと更新停止されてますが大丈夫ですか? (2020年1月13日 7時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
桜 - そうだったのですか…。安心いたしました!テスト頑張ってください^^ (2019年11月27日 18時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 桜さん» 心配していただいて、ありがとうございます…今テスト中で。更新がゆっくりになってます。すみません! (2019年11月27日 16時) (レス) id: 4bcc115d21 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - 最近、更新がありませんが体調など大丈夫でしょうか?とても心配です…… (2019年11月27日 0時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海星 | 作成日時:2019年11月9日 13時