ノクターン第13番

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〜♪〜♪






ーノクターン 第13番ー
Nocturne Op.48-1
フレデリック・ショパン
(Frédéric Chopin/1810-1849)






あの日以来弾けずにいたノクターン第13番は、忘れたい過去であるはずなのに私の指にしっかりと沁み付いていた。



憶えている。

次にどの旋律がやって来るのか、
どこに指を滑らせるのか、

どこが苦手で、どの音が汚れているのか、






ノクターン(夜想曲)ーーー
主としてピアノのための、夜の情緒を表す叙情的な楽曲。夜の黙想、瞑想。






こんなに綺麗な曲だった？
こんなに寂しげな曲だった？
こんなに切ない曲だった？
こんなに愛に満ちた曲だった？



あの頃の私は気づけなかった。

人を羨んでばかりいて、人を恨んでばかりいて、人に嫉妬してばかりいたあの頃の私には、この至極の旋律の意味に気づけなかった。






"愛しさと寂しさを夜に想った曲。それがノクターン第13番だと思う。"






今、少しわかったような気がするよ。






篤「…ね、こんなの俺が言うことじゃないけどさ、」

「？」

篤「ちゃんと練習してんの？」






リクエストを弾き終え右隣を見れば、心配そうな顔をして彼が言う。

"俺の耳が肥えただけ？"と耳たぶを引っ張りながら首をかしげるその姿が、何だか可笑しくなって笑った。






「ふっ、下手だった？笑」

篤「まぁ…ぶっちゃけね。笑」






遠慮がちに頷いた彼は尚も首をかしげ、"あ、さすがにプロでもこの体勢キツイっすか？"と少しだけ右に移動して見せる。



心配になるのも当然だろう。

ピアノに集中するためにこの街にやって来たというのに、私は今、きっといままでで一番下手なピアノを彼に聴かせたのだから。






「3年振りに弾いたの、この曲。」

篤「あ、そーなん？」






"なんだ。"と息を吐いた彼は、"ぜってーサボってると思ったじゃん。"と安心したように笑って、






篤「これは弾かないの？エリザベスで。」

「エリザベート。笑」

篤「そう、それ。笑」






篤「やっぱフレデリックさん名曲多いよね。」

「え？」

篤「なんかバラ1に似てんじゃん、これ。いきなり途中から"何が始まったの？"みたいになる感じがさ。笑」






譜面台に置かれた懐かしい楽譜をペラペラと捲る彼。

そこからフワリと香る匂いは、あの頃の記憶を思い出させる。






「………」






忌々しい過去の残像が目の前を過る中、"俺結構好き。"と彼が笑った。

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