ノクターン第13番

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篤「ふっ、フライング。笑」






22時55分、

PCの中の恋人が、小さく切なく笑った。






"ダメでしょ、後15分練習しなきゃ。"と溜息混じりの笑い声で気づく。

普段特に時間を決めて練習しているわけではないけれど、確かに今日は少し早めに切り上げたかもしれない。



早く、彼の顔が見たかったのかもしれない。






篤「今いいとこなんですけど、」






きっといつもと変わらないその口調が、少しだけ私の心を締め付ける。

PC画面の向こうで手元の漫画に目線を落とす姿に、心がチクッと音をたてた。






ー大丈夫？ー

ーひとりで不便なことはない？ー



ー辛い思いをしていない？ー



ー愚痴でも弱音でも、何でも聞くよ？ー






浮かんでくる言葉たちはきっと、彼が嫌いな言葉たちばかりで、

いつの間にか少し下がっていた口角を上げ、いつもの"クソつまらない話"に切り替えた。






「ケーキ美味しかったよ。」

篤「は？」

「昨日言ってたケーキ。今日のおやつに食べたの。」

篤「へー。そう、笑」

「美味しいからつい二個も食べちゃった。」

篤「何個買ったわけ？」

「三個。」

篤「デブ。」

「………」

篤「冗談だって。笑」






一年前のあの刻、私たちはどうやって伝え合っていたんだっけ？



本当は辛いのだと、
どうやって彼の心を聴いていた？

頑張れ、負けるなと、
どうやって私の心を伝えていた？






ーーーvorwarts…



＜弾いてくれんでしょ？俺が寝るまで、＞



ーーー



ーーーvorwarts…



＜篤人くんにそうしてもらってるとね、いつもぐっすり眠れるの。リラックス効果高いみたい。＞

＜だから今日は私の番。＞



ーーー



ーーーvorwarts…



＜俺ね、ミスった時に手差し伸べてくれた人とか、辛い時に傍にいてくれた人とか結構忘れないんだよね。＞

＜だから蒸し鶏の胡麻ソースがけとかね、一生覚えてると思う。＞



ーーー






それは陳腐な言葉たちなどではなく、

もっと違う不確かなもの。






この距離では伝え合えない、

確かな温度。

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