ノクターン第13番

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「んー…」






課題曲の練習に追われる毎日の中、一つの審査方法が私を悩ませていた。

それはセミファイナル、リサイタルの部。



参加者自由選曲で、35分前後のプログラムを2パターン用意しなくてはならない。

それも、披露できるのは二つの内直前に審査員が選んだ一つだけ。

エリザベートが世界一タフな大会であると銘打たれる理由は、この審査方法も一つの要因だ。






演奏者にとってそれは、ただ選ばれた方を弾けば良い、という単純なものではない。

通常のリサイタルでは一つのプログラムに全てを集中出来るのに対し、本番直前までどちらが選ばれるか分からないということは、二倍の精神力が要されるということだ。



流れ、曲の間合い、

それはすぐにどちらかに切り替える事が出来る程簡単なものではない。






「…マゼッパ…ハンガリー狂詩曲…夜のガスパール…」






だからこそ、全て得意な曲で固めておきたいと思ってしまうのは当然の心理だろう。

でもいざ書き出してみれば、それは似たり寄ったりな楽曲ばかりで、






「…はぁ、」






メモ用紙にずらりと並んだ超絶技巧曲に、一つ深い溜息が漏れた。






ーーーvorwarts…



＜何かさ、バラ1録音した時と弾き方変えた？＞

＜良くわかんねーけど、今のがいい。俺はね。＞

＜ま、素人の戯言。＞



ーーー






彼と出会い、以前より少し感情を音色に変えられるようになったからといって、まだ難易度の低い楽曲に対しての苦手意識は拭えずにいる。

歌うこと、それは私に最も欠けている技術。






〜♪〜♪






超絶技巧だけに頼りたい気持ちは山々だが、それだけで35分間を埋めるというのはさすがに無理があるだろう。

何かいい楽曲はないかと手当たり次第にCDを漁っていれば、何十曲目かに流れた懐かしい旋律にドクンと一つ鼓動が跳ねた。






ーノクターン 第13番ー
Nocturne Op.48-1
フレデリック・ショパン
(Frédéric Chopin/1810-1849)






「……っ…」






ノクターン 第13番、

それはあまりにも忌々しい、挫折の記憶。

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