ノクターン第13番

11 ページ12

11月






この街に来て一ヶ月が過ぎた頃、

懐かしい街並みは日常の景色に、
ウィーン訛りのドイツ語は日常の音色に、
変化した生活サイクルは日常の一コマに、



そして、

恋人に会えない日々はもうすっかり、そんな新しい日常の中に溶け込んでいた。






一人でする食事に寂しさを感じないわけじゃない。一人で眠るベッドに冷たさを覚えないわけじゃない。

でも人というのは意外と強いもので、どんな日常にもそれなりの色を見出すことができる。



彼とあの街で過ごす日々が陽だまりのようなオレンジ色であるなら、一人この街で過ごす日々は刺激的な黄金色だ。

どちらの色も、私は気に入っている。






内田 ブンデスリーガ51試合目で初ゴール！ー






仕事のことを何も話さない恋人の代わりに、その活躍を私に教えてくれるのは毎朝チェックするYahooニュース。



「なんか、ダサくなかった？」

彼らしいコメントを見て笑ってしまうのはいつものことだけれど、遠い街で頑張っている恋人の活躍はいつも私を奮い立たせてくれた。



頑張るね、負けないよ、離れても大丈夫、夢を掴むまで帰ってこない、貴方に最高の音色を聴かせてあげる、



あの夜密かに誓った私の決意は、日を追う毎にどんどん深さを増している。






＜俺のニットキャップどこしまった？＞

＜クローゼットにあるよ。＞

＜ない。＞

＜探せばあるよ。＞

＜探したけど、ない。＞

＜もうちょっと探せば出てくると思うよ。＞






毎日届くメール、

Skype越しに聴こえる彼の声、



一言二言のメールはいつでも素っ気なく、私の"クソつまんない話"など常に上の空の彼だけど、

一日の内ほんの少し重なる二人の日常は、きっと私たちをしっかりと繋いでくれていて、






＜あった。＞






震える鼓膜で、伝える指で感じ合える今は、離れているもどかしさも歯痒さも、私たちを襲ってくることはなかったんだ。



まだ、

なかったんだーー

12→←10.Atsuto side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す