episode 1 ページ2
.
通話を終えると、私はふらりとマンションを出た。
行先も決めず、彷徨うように街を歩く。
『別れてほしい』
『好きな奴ができた。今までありがとう』
スマホの向こうから聞こえたあいつの声が頭の中で何度も何度も再生される。
……ありがとう、なんて。ほとんど言ってきたことなかったくせに。
私は「うん」なんて、言いたくなかったのに。
あーあ、まだ5時だし。本当なら今頃あいつが家に来てたのにな……。
「Hello.」
ポン、と背後から肩を叩かれた。
足元に落としていた視線を上げ、後ろを振り返る。
見た感じがアメリカっぽい知らない男がそこで笑っていた。
……誰？
「今ヒマ？奢るからどっか行かねえ？」
カラーサングラス越しの明るい緑の双眸に覗き込まれる。
色が明るいというより、なんだか、もっと奥の方から輝いていて、その光が宿っているような。
きっと人生が円満な人なんだろう。私とは別次元を生きている人だ。
「すみません、用事があるので」
私は適当に言って断り、歩みを再開した。
――しかし、少し進んだところでまた止められた。
「ま、待って」
焦ったような声と共にしっかりと左肩を掴まれ、仕方なく足を止める。
彼は心から驚いているように、動揺した顔で私に尋ねた。
「もしかして俺のこと、知らねえの？」
「え？……知りませんけど」
声は聞き覚えがなくもない？けど。
すると、彼が突然失笑し、額を片手で押さえて小さく笑い続けた。
「っは、まじか……そっか、俺もまだまだだな」
意味不明なことを呟いたかと思えば、ポケットに手を突っ込み、スマホを取り出す。
「連絡先交換しねえ？えーと、日本でメジャーなのはライン……だったっけな。ほっ」
操作が済んだらしい、笑顔でスマホ画面を見せてくる。
「ん。読み込んで」
……えー、と。
どうして私は初対面の男のラインアカウントのQRコードを読み込まされようとしているんでしょうか。
何故か断れなくて素直に読み込んでる私は何なのでしょうか。
「Thank you! また会おうぜ」
互いを追加し終わると、彼は明朗に笑い、颯爽と去っていった。
……なんだったんだ。
手元で光っているスマホには、「新しい友だち」として“うらたぬき”の名前が表示されていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1071人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エス(プロフ) - ノアさん» いやー！！続きが楽しみですね！一生付いてきます！これからと体は気をつけて更新ゆっくりでもいいので頑張ってください！それと続き編ありがとうございます！ (2020年8月27日 20時) (
レス) id: 3190ad61df (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - ミルクショコラさん» 夏休みですか！最高ですよね！！短いのは残念ですが、是非とも満喫してください^^* (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - エスさん» そう言っていただけて嬉しいです！私もどうなるかわかりません笑 これからもお付き合いくださると嬉しいです！ (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 東雲さん» こちらこそありがとうございます！！長らくお待たせ致しました(汗) 続編移行したので是非これからもよろしくお願いします！ (2020年8月27日 18時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - わかさん» 私がきっかけなんですか！？めっちゃ嬉しいですありがとうございます……！これからも頑張ります！ (2020年8月27日 17時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ノア
| 作成日時：2019年9月5日 19時
