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翌日、午前中に外交から帰ってきたオスマンは報告もそこそこにひとらんらんを巻き込んでAをお茶会に招いていた。
朝からAの部屋に迎えにきていたゾムが一瞬だけ離れた隙を狙って勢いと言葉巧みにAを誘い出し、誘拐のようにエスコートされたAは流されるままオスマンに着いて行き席に座ってからはっと我に返る。
「…あれ?」
「いやぁ、ゾムが居ったら絶対にA様貸してくれへんからちょうどよかっためう〜」
「マンちゃん、これあとでゾム拗ねるんじゃない?」
「A様の独り占めを許した覚えはないからええんよ」
「ま、一応部屋の前にゾム宛に張り紙残してきたから大丈夫だとは思うけど、あとでフォローした方がいいかもよ」
「お茶会誘ったら逃げるくせに我がままな奴めう」
優雅にティーカップを傾けるオオスマンと、湯呑を片手にAを見やるひとらんらん。
机の上にはAの分の紅茶とお茶菓子が並んでいるが、Aは困惑の表情で小首を傾げた。
「えっと、これは一体…」
「あ、A様の状況は全部聞いてますよ。なので気を楽にしていただけると」
「はぁ…」
「A様、良い決断をされましたね」
鶯色の瞳が慈愛を持ってAを見つめれば、Aはようやく状況を把握して紅茶に手を伸ばした。
要はこれはいつも通り単なるお茶会、気軽に話せる場なのだ。
「何から言えばいいか…本当に、感謝してもしきれません」
「A様のためもありますけど、ゾムのためでもありますから」
「…正直、ゾムさんのことも、今でもこれは夢なのか疑ってしまいたくなる時があります」
暖かい紅茶を見つめながら零すAにオスマンは苦笑いし、ひとらんらんはからりと笑いながら問いかけた。
「もし夢ならA様は諦められるの?」
もし、今のAが夢の中にいるならば。
我々軍で過ごした時も、ゾムの想いも泡沫のものだとしたら。
閉口したAは、自覚した気持ちを確かめるようにそっと目を閉じた。
思い出すのは、短いながらもこのW国で過ごした輝かしいと思える日々。
Aを見つめる熱を伴った若草色のあの双眸が脳裏に焼き付いて離れなかったし、あの瞳がもう見られなくことを本能が拒絶していた。
閉じた深紅の瞳が開けば、決意を伴う光を帯びてオスマンとひとらんらんを見つめた。
「今の私なら、諦められませんね」
花が咲くようにふわりと微笑むAの確固たる意志に、二人も小さく笑った。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…!言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…!!感動しました!!素敵な小説をありがとうございます!更新をお待ちしております! (2020年12月30日 14時) (レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年12月23日 19時