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AよりもAの心をずっと案じていてくれていたトリシアの優しさをようやく理解したAは、緩みそうになる涙腺をぐっと堪え、ふわりとゆっくり花が咲き誇るように微笑んだ。
今まで見たAのどんな笑みよりも綺麗で、年相応なその表情に、トリシアはAが自身の気持ちと向き合い受け入れたことを理解して眩しそうに目を細めた。
「ずっと、見ないようにしていました。ゾムさんに酷いことを言って、目の前で否定して、何度も傷つけました。それでも私がずっと諦め続けていたことを、ゾムさんだけが諦めずにいてくれた」
Aはずっと自分だけを諦め続けていた。
一人耐え続ければ大切なものだけでも守れると、そう言い聞かせながらどれだけ心が傷ついてもずっと目を背けていた。
「真剣に私を怒鳴る人、初めてだったんです。一応王族ですから嫌なことを言われても表立って怒鳴る人はいないし、いても私を傷つける人たちだけでした。お母様も私を心配して滅多に怒らなかったんです。ゾムさんだけが、諦めていたことを怒ってくれました」
ぎゅっと大切な何を噛みしめるように両手を胸の前で握るAは、溢れる幸せを喜んで享受した。
「とても大変なことに巻き込んでしまったけど、それでもゾムさんを信じると決めました。初めて信じたいと思ったこの気持ちを、私の全てを、ゾムさんに伝えたいって思ったんです」
微かに頬が朱色に染まりながら幸せそうに微笑むAに、トリシアは浮かぶ涙で黒い瞳を揺らしながらAの手にそっと両手を重ねた。
「ええ、ぜひともお伝え差し上げてください。きっとゾム様もそれを望んでいると思います」
「ふふ、そうですね。そうだと嬉しいって思ったのも初めてです」
「…大変不躾なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」
「いいえ、トリシアが居てくれたから、私はこの気持ちを見つけることができたんです。きっと前までの私なら見つけようとすらしなかったはずですから」
「それなら、一つお願いしてもいいでしょうか」
「はい。トリシアの願いなら、私にできることならなんでも言ってください」
「侍女でなくともいいのです。どうか、お傍にいさせていただけないでしょうか」
懇願するトリシアに、Aは一度閉口した。
瞼を伏せ、すぐに真っすぐにトリシアに問いかけた。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…!言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…!!感動しました!!素敵な小説をありがとうございます!更新をお待ちしております! (2020年12月30日 14時) (レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年12月23日 19時