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疲れによる深い眠りから、Aはふと意識が浮上する感覚に逆らわずに重い瞼を開けた。
ぼやける視界をくるりと回せば見覚えのある黒と白に視線が止まる。
思考するAを待たずにそれが答えた。
「おはようございます、A様」
「……トリ、シア？」
「はい」
いつもの無表情のそれだが、雰囲気や瞳から滲む様々な感情がAの意識を完全に覚醒させた。
「…おはようございます」
「昨日はお疲れだったのですね、本日はとてもよく眠っていらっしゃいました」
「そのようですね」
カーテンから覗く日差しが、朝日を迎えて結構時間が経っていることを教えていた。
上半身を起こし、気まずそうにトリシアから目を逸らしていたAは小さく息を吐いてトリシアと向き合う。
例え罵倒されても全てを受け止める気でいたAに、トリシアは淡々と声をかけた。
「私が、A様に酷いことを言うと思いましたか」
「そうされても私には何も言う資格がありません」
「…そういう意味では、今の私にもA様に何か言う資格などないと思います」
トリシアが自分の手元に視線を落とし、Aがそれを追えば見覚えのある封筒に瞼を伏せた。
「私がそれを渡した意味は、今でも変わりません。あなたの幸せを願うからこそ、国同士の争いに巻き込むわけにはいきません。特にX国で私の侍女だと知られれば、真実など関係なしにあなたを傷つけてしまう」
「A様の優しさを疑ったことはありません。ですが…その優しさが、A様を救わないことも知っています」
「…そう、ですね。それを、ゾムさんから教えていただきました。今までの私のやり方では、私の大切な人の心まで守ることはできないと」
「それではA様の侍女ではなく、無礼を承知で、一人の女としてお聞きしてもよろしいでしょうか」
漆黒の濡れた双眸がAを射抜くように真剣に、見つめた。
Aが小さく頷けば、トリシアは遠慮なく問う。
「私があの時A様にお話しした、A様の心に在るそのお気持ちを、今どうお考えですか」
“「A様、そのお気持ちはきっとどうしようもなくA様の心に在って、どう足掻いても消すこともなかったことにすることもできないものです」”
“「A様も一人の女性なのです。女性としての幸せを願うのがそんなにおかしいことでしょうか」”
トリシアがAに女性としての幸せを願ったあの時と同じ祈るような瞳が揺れる。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…！言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…！！感動しました！！素敵な小説をありがとうございます！更新をお待ちしております！ (2020年12月30日 14時) (
レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年12月23日 19時
