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睨み合う両者に対し外野のチーノは呆れたようにため息をつき、Aの母親は緊迫した状況に関わらず抑えられない親心からそっとチーノに耳打ちした。
「チーノ様、あの方はもしかして…」
「そうっすね、A様の王子様になりたい人やと知ってもらえれば」
「あらあら、まぁ」
「ちなみにW国の軍の中でも最大戦力で強さはうちの総統様のお墨付きなので有望株としてどうっすか?」
「強いだけではなさそうな方ね。あんな風に純粋にAに強く言える人も言い返すAも初めてだわ」
「お目が高い。ちょっと癖はありますけど仲間に対しては優しいとこもあって絶対の信頼やし、あの人が居ることで戦場の中で皆の心の支えになれるような人です。ちょっと口が悪くて悪戯っぽいところはご愛敬ってことで」
ここに於いてとても呑気に聞こえる会話の内容に思わずゾムも口を挟んでしまう。
「聞こえてんでチーノ、人を売り出すんやったら最後まで綺麗なとこだけ見せろや」
「いやいや、だって少しでもクーリングオフされる可能性をなくした方がええやんか」
「誰がクーリングオフされるって?」
「言っときますけどゾムさん色んな意味で結構癖ありますからね?まぁそんなんうちの幹部全員に言えることかもしらんけど」
「せやぞ、お前も普通やないからな」
「けどクーリングオフするしないはA様が決めることなんで、まずは外堀を埋めとこかなと」
「さすが詐欺師」
「おい、お前の暴露話ここで披露したってもええねんぞ。ソースは大先生と部長やからな」
ちなみに使用人たちは皆目を輝かせてゾムとAを交互に見ていたことだけ記しておこう。
ゾムの意識がチーノたちにいってしまい、不満をぶつける相手を探しAが徐に母親に振り向き事の状況がどれだけ危険なのかをきちんと理解してもらおうとした時。
穏やかな表情で娘を見つめる母親に、Aはそんな母親を最後に見たのがいつだったか思い出せなくて思わず声が出なかった。
「やっとこっちを見たわね、A」
ふわりと嬉しそうに、だけど少しだけ寂しそうに微笑んだ母親はAの頬に手を伸ばし包み込むように触れて赤い目と見合わせる。
揺れる自分より少し明るみのある赤を愛おしそうに、慈しむように深い赤が捉える。
「言ったはずです。あなたの苦しみは私の苦しみ、あなたの悲しみも、痛みも、辛さも全て私も同じように感じるのだと」
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…!言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…!!感動しました!!素敵な小説をありがとうございます!更新をお待ちしております! (2020年12月30日 14時) (レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年12月23日 19時