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実質Aが部屋に軟禁されてから数日。
部屋から出ることは許されず、容易な接触も許されなくなったことから部屋の前に必ず見張りが1人立つようになった。
基本的な生活だけであれば部屋の中で全て済ませられるため、Aが大人しく過ごしているとふと通気口から小さな音が聞こえた。
「A」
自分を呼ぶ小さな声だが、間違うことはない。
「…ゾムさん」
答えたAに、ゾムは通気口から降りて音もなく着地する。
数日ぶりにかける言葉に逡巡したように小さく口を開閉するも、結局沈黙してしまったゾムにAから声をかけた。
「殺していただけますか？」
「…嫌や、やって、Aは俺らに何も悪いことしてへんやろ。言われてこの国にきただけなのに、なんで殺さなあかんねん」
「例えそうでも、スパイというだけで理由には十分かと思いますが」
「それでも嫌なんや…！」
ゾムは小さく声を荒げるも、見張りに気づかれないように心を落ち着かせるために大きく息を吐いた。
Aを見つめるその若草色の双眸が望んでいるものを、Aは見ない振りをしようと視線を逸らした。
「なぁ、ほんまに殺す以外ないんか？」
「どうやって？私がX国でどういう扱いを受けていたか、ご存じでしょう？私の言葉になんて耳を貸しません。ならば、この身をもって証明するしかないのです。…ずっと考えてました。どうすれば勅命を全うできるのか、どうすれば私の忠誠心を信じて貰えるのか」
「嘘や、お前が考えるのはいつも知らん誰かのことやんか。自分のことは後回しばっかで、うちの国民のことも考えとるくせに…」
「表向きは外交のためですから」
あくまでAは自分のために今まで動いていたというが、ゾムがその言葉を信じることはなかった。
だが、Aが観光客としてW国に来た事実だけは変わらない。
その事実だけがAの立場を決定づけていた。
眉をしかめ、揺れる若草色にAは問う。
「ゾム様こそ、覚えていませんか」
何を、と沈黙を返すゾムにAは答えた。
「だから言ったではありませんか。私を信用しないでください、と」
「…言うたやんか。Aを信じる信じないは俺が決めるって」
「ですが、実際私はこの国に害のある人間でした」
「それは…」
「理由など重要ではないのです。ただ私がスパイだった、それだけが事実なのですから」
そう言って微笑んだAの表情に、ゾムは目を見開き言葉が出なくなった。
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カラバコの中の子犬(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました…！言葉の使い方や文章がとても品があり、文も読みやすくとても素晴らしい作品です…！！感動しました！！素敵な小説をありがとうございます！更新をお待ちしております！ (2020年12月30日 14時) (
レス) id: e1ec4a729c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年12月23日 19時
