【wrwrd】強さを教えて【zm】 (ページ50)

今日:27 hit、昨日:17 hit、合計:114,253 hit

50. ページ50

当のトリシアもAの世話役をしながらメイドとしての仕事もしているため、こちらも忙しそうにしながらもなんとか午後にはAと一緒に基地を出ることができた。

「お待たせしてしまい申し訳ありません…」

「いえ、むしろこちらの我儘に付き合わせてしまってすみません」

「私はA様のお世話を申し付かっておりますから、A様が最優先です」

談笑をしながら街の中を歩く二人だが、ふとトリシアはある雑貨店に目を止めた。
それに気が付いたAが立ち止まれば慌てて何でもないと言うトリシアを諭す。

「お仕事で要るものなんでしょう？終わった後に売り切れになっても困ると思います今買った方がいいと思いますよ」

「いえ、A様をお待たせするわけには…」

「いつも侍女としてもメイドとしても一生懸命なトリシアさんのためです。そう長くはかからないですよね？私はこれを持っているのでお店には入れませんが入り口で待っていますから」

「ですが…」

「大丈夫ですから」

雑貨店とは言っても飲食も扱っている店に食べ物を持っていくわけにはいかず“これ”と箱を掲げたAにトリシアはどうすればいいか悩んでいるようだったがAの気遣いを無碍にするわけにもいかず、絶対に入り口から離れないように約束して手早くお店に入った。
必要なものを数点のみ購入すること十数分だったはず。
駆け足で店を出たトリシアはAの姿がそばにないことに気が付いた。

「…A様？」

店から離れないという約束をしたのだ、Aの性格であれば離れるにしても必ず何かしら合図をしたはずだとトリシアは急に心の底から襲い来る不安に眉を顰めた。
辺りを見回してもあの特徴的な燃えるような赤が見当たらない。
恰好は庶民と同じようなものだから高貴な人間だと一目で分かることはないはずだが、それでも人目を惹く容姿なだけに不安は募るばかり。
お店の周りを探し回り、ふと人気のない路地裏を見つけて導かれるままゆっくりと歩けば。
路地裏の奥で、Aが大事に抱えていた箱が潰れ、中からAが頑張って作ったシュークリームたちが無残な形で箱から飛び出していたのを見つけた。
落としていただけではそう激しく中のものが無残になることはない、明らかに誰かに踏みつぶされた跡なのだと理解したトリシアは顔を蒼褪めさせて震える手でその潰れた箱を拾った。

だが、周囲にAの姿はない。

そこでようやく、トリシアはAがいなくなったことを悟った。