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虚ろな瞳のままくるりと視線をトントンに向けた鬱先生に、トントンは軽く眉を顰めながらも小さく息を吐いた。
「……まぁ明日までの資料やし、大先生も休憩がてら行って来たらどうや」
「トンち大丈夫なん?」
「山は越えたからな、俺もそろそろ一休みしたいねん」
「じゃあAさんのお願いが終わったらコーヒー淹れたるよ」
「おん、頼むわ」
「すみません…」
「いや、Aさんが謝ることちゃうからええよ、大丈夫」
立ち上がりながらAの傍でへらりと笑う鬱先生に、トントンは小さく笑って大きく伸びをした。
「ほんなら、夕飯の時に起こしてや」
それだけ言ってソファに転がるトントンに慌てて駆け寄ろうとしたAだが、鬱先生が手で通せんぼして制止してからからそのままじりじりとAをドアまで誘導する。
最終的には三人そろってドアを閉めるころには中から微かに鼾が聞こえてきてAは思わず鬱先生を心配そうに見上げた。
「いつものことやし、大丈夫やから」
そう笑ってAを大食堂のキッチンまでリードした鬱先生は先に材料を広げていたゾムを見つけてひらりと手を振った。
鬱先生に気づいたゾムもそちらを見るも、鬱先生の瞳に光がなくなっているのを見て「あー…」と声を漏らした。
「…大丈夫やったん?」
「平気平気、トンち爆睡モードに入ってもうたから」
「今そんなに忙しかったっけ」
「まぁちょっと、ね」
言葉を濁しながらトリシアと一緒にせっせとエプロンをつけるAを見やる鬱先生。
その視線の意図を感じ取ってゾムがじっと鬱先生を見るも、鬱先生はすぐにまたへらりと情けない笑みをゾムに返すことでこの話は終了の意を示す。
手早く鬱先生もエプロンを装着すれば、Aが作りたいものを聞いて口元を引きつらせた。
「…マジ?」
「大マジやで」
「よりによって初心者が難しいもん挑戦するなぁ」
「“園”に作ってあげたいんやって」
ゾムの言葉に鬱先生は今度はぴくりと眉を動かし、すぐに目尻を下げて腕まくりをした。
「そういうことなら美味しいもん作ってやらんとね」
「よ、よろしくお願いします」
「Aさん、そう緊張せんでもええよ。コツさえ掴めば作れるやつやから、まずは成功の感覚を覚えよか」
意気込んだAに優しく教える鬱先生だが、料理自体がほとんど初めてのAがすぐに作りたいものを作れるような奇跡が起きるはずもなく。
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年6月24日 19時