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真っ先に基地内でも別棟扱いのひとらんらんの牧場に行けば動物の世話をしている彼と遭遇できた。
Aが率先して材料を譲り分けてほしい旨を話せば、ひとらんらんは一つ頷いておおよそ数十人分量相当の材料をゾムに手渡した。
「こ、こんなにいただくわけには…！」
「いいよ、別に出し惜しみをしてるわけじゃないしそういう理由で使ってくれるならこっちも嬉しいし。その代わり約束通り作ったら俺にもちょうだいね」
「それはぜひ、オスマン様やエーミール様もお誘いしてお茶会を開けたらと思っていますのでひとらん様もお誘いしたいです」
「ああ、それはいいね。マンちゃんも喜ぶよ」
和やかな会話の後ろで「…重い」と零すゾムと即座に卵だけはゾムが抱える材料の中から引き取るトリシアに、ひとらんらんはからからと笑った。
「頑張れゾム、それをA様に持たすわけにはいかないからさ」
「分かっとるし、別に持てないわけやないし」
「そうだね、ゾムは力持ちだもんね」
「なんなん、ひとらんといいマンちゃんといい俺を子供扱いしよって」
「後輩を可愛がって何が悪いのさ」
「キツいっての、可愛がられるような歳やないで」
「後輩ってだけで可愛いもんでしょうが。ゾムだって下には甘い癖に」
一歩も引けを取らないひとらんとの言葉の攻防に、とうとうゾムは口をへの字の曲げてしまった。
そんなゾムにまた笑みを零したひとらんはAに向けて言う。
「あいつちょっと素直じゃないけど、優しいやつだからさ。よろしくね」
「いえ、優しい方なのは知っておりますから」
「それは良かった。じゃあお菓子作り頑張って」
「はい、お邪魔しました」
微笑み合ってひとらんの農場を後にしてから、ゾムはそのまま大食堂のキッチンへと向かいAとトリシアは鬱先生を探して書記長執務室を訪れた。
控えめにノックしてドアを開ければ、ちょうど書類の山と格闘をしていたらしく隈のひどいトントンの沈んだ緋色の瞳とニコチン不足の鬱先生の虚ろな藍色の瞳が部屋に入ってきたAとトリシアを捉える。
何度かこういった場面を見たことがあるAはトリシアにちらりと視線を向けつつ、鬱先生にそっと近寄り申し訳なさそうに声をかけた。
「あの…鬱さんにお願いしたいことがありまして…」
「…ん？僕？どしたん」
「これからゾムさんとお菓子作りを教えていただくのですが、鬱先生にも助けていただきたいのですが」
「あー…そういえば前にそんな話しとったらしいね」
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
