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ずっと無表情だったトリシアの背後にゆらりと黒いもやが揺らめく幻視をしてしまったAは、一瞬だけ寒気を感じ口を閉じて伺うようにトリシアを見た。
さっきまでは無表情の中でも楽しそうな雰囲気が見えていたのに、今は氷のように冷たい空気を纏っている。
Aが怯えていると察したトリシアは深く息を吐いて冷たい空気を霧散させた。
「いえ、この件少しゾム様とお話しすることがありそうです。それでは本日はどのようなご予定でしょうか?」
「今日はこれからゾムさんと街に行く予定です」
「かしこまりました。では私も準備して参ります」
言うなり素早く退室したトリシアに首を傾げるも、Aは準備を進めた。
Aの準備が終わるころにドアが再度ノックされ、開かれた先にはメイド服ではなく外着用に着替えたトリシアとその後ろに少し項垂れているゾムが見えて思わずゾムに近寄った。
「…何かあったのですか?」
「いえ、A様がお気になさるようなことではありませんので」
きっぱりとしたトリシアの言葉に困惑しつつゾムを見やれば、ゾムは大きく息を吐いて据えた目でトリシアを見る。
「お前…俺にあんなことしといて…」
「A様にあのようなことを言われるからです」
「何でお前に怒られなアカンねん…」
「それでA様、本日はどちらに向かわれますか」
「無視かおい」
「えっと、その…」
ゾムの言葉を完全に無視したトリシアの問いに、Aは微かに視線を彷徨つかせたが意を決したように顔を上げゾムとトリシアに詰め寄った。
「街のお菓子を食べたいのです」
「…は?」
「街のお菓子…ですか?」
意気込んで言われた言葉の内容の真意が読めない二人が怪訝そうに問い返せば、Aは少しだけ気まずそうに、恥ずかしそうにゾムに視線を向けながら言った。
「あの、以前ゾムさんがしてくだった約束の件で」
「あー…もしかしてお菓子作るってやつ?」
「はい」
「いや、でもそれなら別に街に行かんでも教えられるで?」
「それは分かっていますが…できれば、私自身が作りたいと思ったものを作ってみたいんです」
「でしたらここには様々なお菓子がありますし、わざわざ街に行かずともシェフが見本をお見せすることは可能ですが」
ゾムとトリシアはお菓子を作るだけならわざわざ街まで行かなくてもいいのでは、という言い分だったが決してAはそれに納得はしなかった。
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年6月24日 19時