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礼儀正しくAの許可を取ってからクローゼットを開けたトリシアは内心感嘆した。
位が上の立場の者ほどその権威を保つために身に着けるものは特に気を遣っているし、侍女をつけるのも一種のステータスと捉える人も少なくない。
故に、自分で自分のことをあまり管理しない貴族はこと持ち物の整理に於いてはどうしたらいいか分からない者も多い中、クローゼットの中は普段着用の軽いものと礼服用ドレス、そしてその他身に着けるものがきちんと分かれており取り出しやすいように並べられていた。
ふと部屋を見渡せばドレッサーの端に宝石入れもあるのを見てそっとAを視線で伺えば、察したAが頷きながらその箱を開けてよく見えるように広げて見せてくれた。
どれもそこまで煌びやかでないものの、品があり手入れもされているのを見て今度は感嘆を言葉にした。
「本当に今までお一人でなされていたんですね…X国の時もそうだったのでしょうか？」
「ええ、まあ。元々そこまで地位に固執するような性格ではないですし、自分でできることを増やす方が楽しかったので」
「ご立派だと思います。それでは私は本当にお手伝い程度に、毎朝身支度確認とドレスを着られる際はぜひお手伝いさせてください」
「ありがとうございます」
ふわりと優しく笑むAをじっと見つめたトリシアはAの耳についている深い赤い雫を見つけて一歩近づいた。
「綺麗ですね」
Aの髪と瞳によく似合うそれは、だけど今見た他の宝石に比べ派手に見えるため思わず注視してしまったトリシアはAの気恥ずかしそうな表情を見てハッと我に返り慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません、無礼でした」
「い、いえ！どうか頭を上げてください。その、綺麗と言っていただけて、嬉しかったので」
頭を上げてほしいというAの言葉にゆっくりと顔を上げれば、また視界に入るAと深紅の雫に目が奪われそうになるのを堪える。
そんなトリシアの心境をしらないAは耳元に手をやりながら気恥ずかしそうに、だけど複雑そうに目元を伏せながらそれの存在を確かめた。
「昨日、ゾムさんからいただきました」
「…ゾム様から？失礼ながら、どのような経緯でしょうか？」
「特に意味はないそうです。貰い物だったけど自分に合わないから、お守り代わりにってくれたもので…」
「……ゾム様へのいただきものを、ゾム様からいただいたのですか？」
「はい、そう言っていました、が…トリシアさん…？」
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
