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「案外悪くないやん」
燃えるような赤い色の髪と瞳を持つAの耳元で、控えめに揺れる対の深く赤い雫が微かな自己主張のように揺らめき、煌めく。
初対面のショッピとチーノですら思わず息を呑んで「似合う」と思ってしまうほど、その耳元の深い赤はAに馴染んでいた。
困惑からか、眉を顰めるAは耳元に手をやって呟くようにゾムに問いかける。
「…どうしてですか。あの時の私の言葉を、覚えていないんですか…？」
あの時の言葉という単語に、ゾムはあの場では返せなかった答えを、Aを真正面に見据えて返す。
「誰を信じるかは俺が決める」
「それが、裏切られたり騙されていたとしてもですか」
「せや。それが俺の答えや」
「…そう、ですか」
息を詰まらせ、そう返すしかできないAにゾムもそれ以上何も言うことはなかった。
2人にしか通じていない雰囲気にショッピとチーノは顔を見合わせ、そっとAとゾムを交互に盗み見た。
2人にとってゾムとはこの軍の中でも最大の実力者で、尊敬すると同時に未だ微かに恐れを抱く人物である。
よく接する幹部相手にこそ優しさを発揮するが、仲間の中でも自分と相手をはっきり区別する性格で、特別誰かを気遣ったり何かをあげたりする姿を滅多に見たことはなかった。
“味方最大の脅威”の名の通り、味方ですらその脅威に慄く実力者、それがゾムだった。
専ら幹部たちの中ではその脅威は主に悪戯方面で発揮され恐れられているのもあるが。
そんなゾムが他国の、それもあまり好きではないと漏らしていた王族相手にここまで気に掛けるなど2人からすれば前代未聞ものでどう扱えばいいのか分からず、気まずそうにただAとゾムを見ることしかできなかった。
少しだけ重い空気の中客室に戻るというAの言葉にゾムは黙って席を立った。
同じように席を立ったAが微かに眉を下げてショッピとチーノに頭を下げる。
「変な空気にしてしまってごめんなさい。今度ゾムさんがいる時に、また鬼ごっこに参加してもいいですか？」
気を遣うAの様子に嘘を感じられなかった二人は敢えて語調を明るく返した。
「今度はトントンが居らへん時にやりましょうね」
「どうせならコネシマさん巻き込んで全部コネシマさんのせいにしてやりましょ」
「ショッピ君は自分の先輩やから遠慮ないけど俺がその分部長にパワハラされんねん…」
「あの人のトガハラはホンマに分からんわ。それなら鬱兄さんも巻き込めばええんちゃう？」
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
