【wrwrd】強さを教えて【zm】 (ページ47)

今日:6 hit、昨日:2 hit、合計:114,296 hit

47. ページ47

目を見開くトリシアと鬱先生は不敬ともとれるゾムの態度に恐る恐るAの反応を見るが、Aはそんなことよりもゾムの長い前髪から垣間見えた若草色の瞳の奥の微かな光に一瞬呼吸を奪われそうになった。

「やるやん。美味いで」

軽く頭を撫でた後唇についたカスタードクリームを舐めとるゾムに鬱先生は勢いよく近寄ってその頭を思いきり叩いた。

「い゛っ」

「なにしとんねんお前は！Aさんは他国の王族や言うとるやろ！なにしれっと頭撫でとるん？！不敬で訴えられてもおかしくないで？！」

「A様、ゾム様はこのような性格なので、あの…A様？」

トリシアの言葉すら遠くに聞こえるほど、Aの頭の中には先ほどのゾムの眼差しでいっぱいになっていた。
ぶっきらぼうで、悪戯や戦闘になると嬉々として輝くのを知っていた若草色の瞳が、あの時はAだけを見つめてふっと微かに細められたのをAは見てしまった。
立場など関係なくただたった一回お菓子を作れただけで喜ぶAを眩しそうに、見守るように優しさだけを感じた眼差しだった。
まるで家族や親しい人に向けるようなそれに、Aはきゅっと胸を締め付けられた気がした。

「なにすんねん大先生！」

「それはこっちの台詞や！お前はもうちょい後先考えて行動せぇ！」

「Aがこんくらいで怒るわけないやろ！」

「Aさんの優しさに付け込むな！あくまでAさんはお客様なんやからな！」

未だに続く鬱先生とゾムの喧噪の中、トリシアはふとAの耳元と首が微かに朱を帯びているのに気が付いた。

「…A様」

今度はそっとAの前に回り込み、目を合わせるように名前を呼べば今度はAも反応した。
どういった理由かまでは分からないが、芯の強い深紅の双眸がAの心情を表すかのようにゆらゆら揺れていた。
Aもそれを自覚していたため一度ゆっくり瞼でその深紅を覆い隠すと、次に目を開けた時にはいつもの赤い瞳がトリシアを捉えた。

「家族以外に頭を撫でられる機会なんてなかったので、ちょっとびっくりしました」

苦笑いしながら気にしていないことを告げれば、不満そうながらも鬱先生はゾムとの口論を止めたが当のゾムは怒られたこと自体が不満のようですかさず鬱先生の背後を取り膝かっくんをお見舞いする。

「ゾム！」

「うっさい！」

逃げ出したゾムに鬱先生は大きくため息をついたが、とりあえず夕飯時が近いということで三人で後片付けをはじめた。