行き先が迷子の子猫【作兵衛】 ページ33
少しだけ、夕方が怖い。
そう思ってしまったのは、ごく最近になってからだった。
・
・
・
三之助がいない。
左門もいない。
ついでにAもどっかに行った。
Aは別に迷子でもなんでもないはずだ。ただどっかでフラフラしてたり、木の上で寝ているだけだ。
「藤内、三之助と左門とA知らねえか?」
廊下ですれ違った藤内に聞いた。
「いや知らないけど......、あ、Aならさっき左門を探すって蔵の方に行ってたけど」
「藤内さんきゅ」
「いや構わないけど、」
作兵衛って、Aを探すことが増えたよな。と朗らかに笑う藤内にどこか胸の奥でつっかえるモノを感じた。「そっか」と笑って飲み込んだ。
・
・
・
影の降りる夕方が怖かった。
怖かった、からその陽炎に手を伸ばした。
陽炎はちゃんと本物だった。
「コラ作ちゃんダメじゃないいきなり......」
勢いあまってAを引っ張ってしまった。頭を押さえながら非難するようなつり上がった目が俺を睨む。
「......お、おう」
怒るAより、ただただ自分が恐ろしかった。何が?なんであんなに怖かった?自分はどうしてあんな必死に叫んだ?
吐き出しそうになって手で口を押さえる。
言える訳がない。
木を登ろうとしたAの背中が夕陽に融けていって、そのまま消えてしまいそうだったなんて、そんな女々しいこと。まるで、まるであの時の______。
じわりと視界が歪んだ。情けない自分に腹が立つ。
「Aは、どこかに消えちまったりしねえよな?」
Aは一度瞬きした後、にへらと笑った。
「今はね」
なんて残酷な答えなんだろう。知っていたんだ。Aは絶対に無責任な事は言わないってことは。
なんてコイツは気まぐれで身勝手な奴だ。猫、そうだ猫だ。行く宛のない猫。迷子になってることに気がつかない猫。
きっと、風の吹くままに彷徨って、夜が来たら、どこかに隠れてしまう。目を離した隙に、遠くに行って、きっともう帰ってこない。
そんな心配を俺がしても、きっとコイツは「大丈夫」と言って笑って誤魔化す。
「作兵衛?」
逆光を受けて影が差したAの腕を震えた手で自分の額に寄せて、縋るように、祈るように頼んだ。
今だけ
今だけでいいから
「どこにも、行かないで」
(せめて目の届く場所にいて欲しい)
(もうあんな思いは、二度と____。)
*+*+*
白菜様いかがでしたでしょうか(震え声)
作兵衛の心労がまた一つ増えた回でした。
ちなみに左門は夕食前に帰ってきました。
ラッキーアイテム
革ベルト
ラッキーカラー
あずきいろ
おみくじ
おみくじ結果は「末凶」でした!
115人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
苺たると(プロフ) - 涙腺ゆるゆるにして見てました…。こういうネタ大好きなので嬉しいです!更新楽しみにしてます! (2020年6月29日 21時) (レス) id: 4ddd192ae6 (このIDを非表示/違反報告)
かまぼこうどん(プロフ) - MadHatterさん» ありがとうございます!この小説を楽しみにしていただけたら幸いです!無理をせずゆっくり書いていきたいと思います! (2018年3月23日 18時) (レス) id: 4829cee081 (このIDを非表示/違反報告)
MadHatter(プロフ) - ボロボロ泣きながら拝読させて頂きました。続き楽しみにしております。無理だけはなさらないでください。 (2018年3月23日 2時) (レス) id: 17134202e7 (このIDを非表示/違反報告)
かまぼこうどん(プロフ) - ざわさん» ありがとうございます。3月以降から本格的に更新を再開したいと思います。今回は生存報告としての今の現状とお話をあげさせて頂きました。引き続き応援よろしくお願いします。 (2018年2月12日 23時) (レス) id: 4829cee081 (このIDを非表示/違反報告)
ざわ(プロフ) - ドキドキしながら一気読みしてしまいました! この作品大好きです!素敵な小説をありがとうございます。受験はもうラストスパートでしょうか?お勉強頑張ってください!このコメントが届いているかどうかわかりませんが、心から応援しています...! (2018年2月6日 23時) (レス) id: c9576dec0e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:かまぼこうどん | 作成日時:2017年7月3日 22時