雨の日、私が生まれた日。【忍たま】 2

ハートフルボッコだドン！()3 ページ24

「...あ、え？」

「違う、違うよ。違う、違う」

「せんぱい？」

「〜〜〜〜〜！！」

先輩は、腫れ物を扱うような感じで抱きしめてきた。嫌なら、わざわざ触らなければいいのにな。


「違う、違うんだ」

「何が違うんですか？」


先輩からは薬草の匂いがする。すん、と鼻をならして顔をあげた。けれど顔にかかるのは先輩の柔らかい髪だけで、首を振って髪を振り払った。

いつまで、長い時間そうしていたのか、短い時間そうしていたのかはわからない。

けれど、小さな声で先輩が言った。


「あのね、嫌いじゃないよ」

「はあ」

「みんな嫌ったりしないよ」


先輩はゆっくり体を離すと、私の頰に手を置いた。


「...熱が出ているから、薬を飲もうか」

「熱でてますか？」

「うん。だから、まだここにいて」

「距離置かなくても良いんですか？」

「...本当に嫌いだったら、こんなことしないよ」


ぐすっ。なぜか涙ぐんでいる先輩。私は申し訳なくてこう言った。


「泣くほどですか」

「だってっ、そういう事言うからっ」

「何を？」

「汚いなんて思ってないし、嫌いだなんて思ってないってこと！」


先輩はそう泣きながら水と薬を渡した。


「苦いですか？」

「ちゃんと飲んでよ...。もう心が痛む...」

「痛むなら関わらなきゃいいじゃないですか」

「僕の言ったこと伝わってないよね...？」


先輩は真っ青な顔で凝視してくる。半ば涙目。

お可哀想に。私と義務的に関わってしまっているばっかりに。

口に入れた苦い粉薬を、水の勢いで流し込んだ。






(距離を置きたがっているのは、一体どっちだ)

(A、君は君を守っているだけ)

(だから、僕の心だって、届いてないんだろう？)




Aは、相手の感情を読み取ることが苦手なのかもしれません。幼少期からそうした大人としか関われなかったばかりに、感情が、乏しく思えます。


好きなものは好き。

嫌いなものは嫌い。

悲しいものは悲しい。

楽しいものは楽しい。


一種類の喜怒哀楽と嫌悪の感情しかありません。

マイナスな気持ちにはいっとう敏感です。おそらく環境が原因でしょう。

だから、愛情やら、好意やら、独占欲やら、幸福やら、他人から与えられて当然の感情がありません。

一方通行の感情は、僕達に向けて勘違いを起こしています。僕が悲しくて抱きしめても、気持ちは彼女には届きませんでした。

どうしたら彼女に伝わるのでしょうか。



(保健委員会、善法寺伊作の委員会日誌より抜粋)

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