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数ヶ月前、長続きする体調の悪さに病院に行った。
いつか治るものだと軽い気持ちでいれば、先生は精密検査をしましょうと言い出した。
目の奥に、焦り。
俺は人の感情を読み取るのが得意だった。
されるがままに検査を受け続ける。
そして、白血病だと診断された。
驚かなかった。
でも、どうしようもなく怖かった。
自分の命より、彼女…Aのことが心配だった。
そして今日も学校に行く。
Aを見つけて、いつもと同じようにおはよう、と言えば、彼女も同じようにそう言って嬉しそうに笑う。
その笑顔に、俺は救われている。
だから病気のことなんて言えない。
自分から彼女の大好きな笑顔を奪うことなんてできない。
Aには、ずっと幸せでいてほしい。
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卒業式の前日、二人で帰る時間が辛かった。
明日別れると決めていた。
繋いだ手が、体温が、全てが大好きで苦しい。
これで最後だから。
そう思うと無意識のうちに繋ぐ手に力が入ってしまう。
『ん?』
「…なんでもないよ」
ぎゅっと手を握り返された。
きっと、Aには俺より幸せにしてくれる人がいる。
そう自分に言い聞かせて、あっという間に着いた駅の前でそっと手を離した。
裕貴とふみちゃんには全て話していた。
なんでAに言わないの、って二人に何回言われたか分からない。
それでも結局納得してくれた。
ありがとう、と言えば、二人は悲しそうに笑っていた。
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「別れよう」
まるで心臓を抉られているみたいに胸が痛い。
自分が決めたのに、今になって揺らいでしまう。
『な、んで』
もう嫌いなんだよ、なんて嘘を吐き捨てた。
…俺のこと、嫌いになったかな。
俯いて泣く彼女を見て、だんだん俺の視界もぼやけ始めた。
『…ごめんね』
ごめん、A。
『本当に……大好、きだった』
俺も大好きだよ。
だから、
「さっさとどっか行けよ!!」
俺を忘れて。
Aはパタパタと目の前から走り去った。
息が上手くできない。
涙が溢れて止まらなかった。
そこからしばらく動けずに、声を押し殺して泣いた。
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すっかり見慣れた病院の白い天井が視界に広がる。
Aへの手紙に書いた内容は、詳しくは正直よく覚えていない。
手紙は自己満足で渡すつもりはないし、どこかに仕舞ってからもう見ていない。
でも、一つだけ伝えたいのは、覚えているのは…
「幸せになってね」
急に眠たくなって、ゆっくりと目蓋を閉じた。
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那奈(プロフ) - 続きがめっちゃ気になる!!大変だと思いますが更新頑張ってください!! (2020年4月16日 15時) (レス) id: 4a3fdbf345 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:麦 | 作成日時:2020年4月7日 18時