子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ49)

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冬になった。

三年担当の教師は皆ピリピリしている。
それどころか、職員室全体が張り詰めた雰囲気で呼吸が止まりそうだ。

次で最後の一人…
吐きそうなほどのプレッシャー。
ゴクリと唾を飲み込んで、ぐっと手を拳にした。

プルルルル…プルルルル…

音が鳴った瞬間、緊張と驚きで体が震えた。

『どうだった…？』

「先生……第一志望合格しました！！」

『おめでとう！！』

それから少し話して電話を切った後、全身の力が抜けて背もたれに体重を預けた。

良かった…合格した…

「お疲れ様です、立花先生」

『山﨑先生…ありがとうございます』

渡してくれたコーヒーを一口飲む。

あー…染みる…

酷い安心感と疲労感。
何だか涙が出そうになった。

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『何とか受験戦争を乗り切ったよ』

「おつかれ、A。よく頑張ったね」

保健室でそう言えば、ふみは笑って背中を擦ってきた。

受験生の担任は本当に骨が折れそうだった。
肉体的にも精神的にもやられて、最近は食欲が無かった。

『…あれ、裕貴からLINE来てる』

「あぁ、見てなかったの？」

『うん。全然携帯触ってる暇が無くて』

久しぶりに見た携帯画面。
何となく電源を着けると、三人のグループラインで裕貴から送られてきたメッセージが一件あった。

また三人で飲もう。いつの日空いてる？

仕事以外何か予定あったっけ、と思い返して、特に何も無かったから「土日ならいける」と返信する。
…うわ、既読はや。

じゃあ明日、前の店に十九時集合！

『何となく楽しそうな様子が伝わるんだけど』

「あはは、それ分かる！」

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少し前にAが帰って、自分も仕事が終わって荷物を整理していた時。
はっと思い出して机の引き出しを開ける。

分厚く重なった書類の一番底を捲る。
取り出した封筒を、鞄の中に入れた。

頭の中で流れ出すのは、昨日の夜裕貴からかかってきた電話。

「ふみ、お前まだ言ってないの？」

「…うん。言えないよ、怖くて」

「ごめん。ふみだけに背負わせて」

「いいんだよ、私が頼まれたことだし…ちゃんと責任持ちたい」

「でも…もうそろそろだと思うんだ。だから」

今度会ったとき、Aに言おう。

私も覚悟を決めた。
それでも廊下を歩く一歩が重く感じる。

本当に今で良いかなんて、誰も分からない。
でもずっと言わない選択肢はない。

そうだよね、倫也くん？