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そんなに深い話をするつもりはなかったのに、二人は真剣な顔をしていた。
『ほら、そんな顔しないで』
どこか昔の自分に言い聞かせているような気持ちで笑った。
そう言えば、二人の顔も柔らかくなる。
「引退したら、次は勉強だな」
「あー、やだなー!」
『二人は頭良いし、そんなに心配しなくても大丈夫かもね』
「いや、そんな言うほど賢くないからね?」
「ぼちぼちだから、俺も」
『え、亮国語の点数高いじゃん』
「国語が得意なだけ。他は知らない」
そっぽを向いてそう言った亮に、隆は何故か笑っていた。
でも、何だか前を向いてくれたみたいで良かった。
やっと教師っぽいことをしたような気がする。
「時間も遅くなってきたし、そろそろ解散します!」
そんな声が聞こえた。
…解散したら、本当に終わってしまう。
分かっていたのにやっぱり寂しかった。
すると部長が前に立って、自然とみんなの視線が集まる。
「三年、全員集合!」
なにするつもりだろう。
戸惑いながらも、隆と亮を前に送り出す。
どうやら事前の打ち合わせは無かったようで、三年生も困ったように笑っていた。
「えー、大会が終わってしまったので、三年生はこれで引退です。だから、ここで最後の挨拶をしたいと思います!」
「やだー!」
「やだじゃない!一人ずつやるんだよ!」
三年がめちゃくちゃ嫌がってるし、グダグダだなぁ。
思わず苦笑いしたけど、嫌がりながらもちゃんとやり始めた。
.
『じゃあ、解散!お疲れ様でした』
無事に三年の一言も終わって、全員笑顔で打ち上げが終了した。
今まであんなに騒がしかったのに、解散すれば驚くほど静かになる。
数人がお店を出ていく中、会計を終えた私もお店を出ようとした。
「A先生も電車?」
『うん。あれ、隆は?』
「迎え来てるって行った」
電灯がぼんやりと道を照らす。
夜に生徒と並んで歩くのは不思議な感覚だ。
「これ、いつの間に用意してたの?」
嬉しそうに見つめる亮の手には色紙が握られている。
『秘密。サプライズ成功だったね』
「もう、本当にびっくりした」
帰る前に、前から用意していた寄せ書きした色紙を三年全員に渡した。
『きっと卒業式の日に渡すべきだったんだろうけど、引退のときの方が感動するかな、と思ったから』
「そうだね、そっちの方が良い」
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姫さま2代目(プロフ) - 突然のコメントですみません。この作品はとても面白くて大好きです。もし良ければ、先生が高熱で倒れるというシチュエーションのお話を書いてもらえませんか? (2019年12月5日 16時) (レス) id: b829960b29 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:麦 | 作成日時:2019年9月1日 21時