子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ38)

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吉沢side

「なぁ、隆」

「ん？」

三年になってから一週間程過ぎたある日の昼休み。
また同じクラスになった隆に手招きして、教室の端へ誘導する。

「…ちょ、真剣に聞けよ」

「はいはい」

「俺の担任、A先生だろ？」

「俺達の、な」

「そんで、新しい部活の顧問もA先生」

「うん」

「これって…運命？」

同時に隆の方を向けば、お前そんなこと言うキャラだったっけ、と言われた。

そりゃあ言いたくもなるだろ。
こんな偶然ある？いや、無い。

壁に凭れながらうんうんと頷いていると、足音が近付いてきた。

「あの、吉沢先輩…ちょっといいですか？」

見たこともない後輩の女の子。
隆に確認の意味を込めて視線を送ると、行っておいで、と軽く肩を叩かれた。

告白か。

黙って俺の少し先を歩くその子の手は、緊張からか強く握られていた。

彼女の足が止まったのは屋上だった。
くるりとこっちを振り向いたその子と目が合う。

「私と、付き合ってください」

頬をほんのりとピンクに染めながらそう言う彼女は、一般的にはかわいいと言われる顔立ちをしているのだと思う。

俺だって告白されるのは嬉しい。
いくらされ慣れているとはいえ、こっちが少なからず緊張しないなんてことは無い。

でも、今の俺には断るしか選択肢が見つからなかった。

「ありがとう。でも、ごめん」

「…っ、突然すみませんでした！」

だって、好きな人がいるから。

「うわっ！」

『吉沢くん、断ったのか…』

女の子が走り去っていった後、視線を感じて振り返れば、入り口から死角になるベンチにA先生が座っていた。

…まさか見られていたとは。
しかも先生に。

『なんで断ったの？結構かわいい子だったけど』

「別に。っていうかなんで屋上いるの？」

『いつもお弁当ここで食べてるからね。穴場スポットだし』

さりげなく話をそらし先生の手元を見ると、確かに弁当箱があった。

…地味に今、いいこと聞いたな。

「俺も来ていい？」

『うん』

よっしゃ、さらっと許可ゲット！
これは隆に報告だな。

心の中でガッツポーズをかました。

教室への帰り道、ふとさっきの先生からの質問を思い出す。

＿＿何で断ったの？

断った理由なんて、先生に言えるはずが無い。