子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ35)

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吉沢side

「よし、今日は解散！」

ありがとうございました、と礼をして荷物置き場に向かう。
部活着の上にウインドブレーカーを重ね着して、リュックを担いだ。

「亮、」

「あ、隆。おつかれ」

「お疲れ様。今日、俺用事あるから先帰るわ」

「おっけ、じゃあな」

「また明日」

走って出ていく隆を見送り、その数分後に自分も体育館のドアを押し開けた。

.

「う、わぁ…」

靴箱の小さな扉を開くと、パンパンに詰まったカラフルな箱達。

そう言えば今日はバレンタインだった。
いや、勿論教室の机にも入っていたけれど。

靴箱に収まりきらずに溢れ出た箱が、ゴトゴト音を立てて足元に降ってくる。

靴箱要領オーバーだわ。
っていうか、下靴と一緒に押し込まれてたチョコを誰が食べんだよ。

などと皮肉を心の中で言ってしまう俺は、かなり性格が悪い。
とりあえずそのままにする訳にもいかないので、制服が入っているナップザックに全部詰め込んだ。

靴を履き替えて薄暗くなった外へと歩き出す。

吐き出した息は白くくもって消えた。
肩からずれたリュックを背負い直して、マフラーに埋めていた顔を上げると、

「…あ」

数メートル先にA先生の後ろ姿。
自然と自分の頬が緩むのが分かる。
部活の疲れを忘れて、その小さな姿へ思いっきり駆け出した。

「先生！」

『びっ、くりした…！』

後ろから両肩に手を置くと、物凄い勢いで振り返った。
その大きな目に自分の姿が写っているのが見えるほど距離が近い。
更に先生の鼻は冷たい空気にほんのり赤くなっていて、余計に幼く見えた。

これは危ないぞ、俺…

そう思って不自然じゃないように手を離して、ゆっくり距離を置いた。
すると、先生の口がモゴモゴ動いていることに気付く。

「え、何食べてんの？」

『チョコ』

…は？

誰かにあげた余りなのか、逆に貰ったのか。
一気に焦りと不安に支配されて、気が付けば穴が空きそうなほど先生を見つめていた。

『そんな目で見ないでよ。一人バレンタイン、悪くないよ？』

「…一人？」

『そう。自分のお金で買ったチョコレート。…あれ、なんか悲しい？』

上着のポケットからチョコレートの箱を出してそう言う。
それを見ると安心して変に力が抜けた。
安堵の意味で長く息を吐いたら、溜め息つくな、と勘違いで小突かれる。

すると箱の形が所々浮き出たナップザックを見て、先生が目を細めた。