子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ33)

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『……寒っ！』

二月の朝は冷える。
今日もまたすっかり下がってしまった室温で目が覚めた。
ごそごそと布団を被りなおすと、そのタイミングでピピピッ、と目覚まし時計が鳴る。

あぁーもう…

ベッドから何とか抜け出してカーテンを開けると、昨日降った雨で出来た水溜まりが凍っているのが見えた。
雪ぐらい降ってくれたらいいのに、なんて思っても、外は普通に晴れている。

溜め息を吐いて、リビングへと冷たい床を歩いた。

.

休み時間に廊下を歩いていると、後ろからパタパタと足音が聞こえてくる。

「Aちゃーん！」

Aちゃん…！？と振り返ると、駆け寄ってきたのは環奈ちゃんだった。

『先生をつけなさい。久しぶりにちゃん付けで呼ばれたよ』

「えー、可愛いじゃん」

「可愛いとか関係ないの！」

でも、えへへ、と笑っている彼女が可愛いから怒るに怒れない。
ニコニコ笑っている環奈ちゃんと歩いていると、急にこっちを見て小さな声で話す。

「先生、今日って何月何日？」

『んーとね……2月14日』

「つまり今日は何の日？」

『…あ、バレンタインデー？』

思い出してそう言うと、忘れてたの！？と大声で返ってきた。

仕方ないよ、こういう仕事に就いてたらそういうのに縁がないから。

そんなことを思って内心苦笑すると、環奈ちゃんが私の袖を引っ張って人通りの少ない階段に連れてきた。

『おぉ、何々？』

「…先生、チョコちょうだい！」

『え！？やだやだ、そんなことしたら確実に私怒られるよ』

「おねが～い、私この前誕生日だったし！」

『え、そうなの？…いや、だめ！』

誕生日というワードに一瞬ぐらついたけど、なんとか踏みとどまった。

その後も環奈ちゃんは、

「今年は誰からも何も貰ってないの！」

とか、

「仲良いでしょ、この仲でしょ！」

とか散々言ってきて。

……結果、いいよって言ってしまった私も私だけど。

環奈ちゃんとは放課後に会うことになった。