子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ20)

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『はい、授業終わります』

号令をしてチャイムがなり、やっと六時間目が終わった。

頭痛い……

廊下に出て、こめかみを軽く押さえる。
教室から聞こえてくる楽しげな声ですら、頭にガンガン響く。
深呼吸をして、職員室へと歩き出した。

授業はやりきったから、後は30分だけ仕事して早く帰ろう。

そう思って階段を降り始めると、後ろから足音が近付いてくる。

「A先生！」

『…どうしたの、吉沢くん？』

大きな声が頭に直接響く。
痛いな…と思いながらも、声がした方へ足を動かしたまま振り返る。

「ここが分から……え、」

『え？』

「すごい顔色悪いですよ！保健室に…」

顔色が悪い？
おかしいな、メイクで隠したはずなのに。

別に大丈夫だよ、と言おうと思ったけど、口の中がカラカラに渇いて声が出なかった。

目の前には、心配そうな顔をして口を動かしている吉沢くん。

…あれ、声が聞こえない。

そう思った瞬間に視界がぐにゃりと歪んだ。
階段から足を踏み外して後ろへ傾き、そのまま倒れていく。

やっぱり、駄目だったか。

危険な状態なのに頭は案外冷静で、ぼんやりとそんなことを思い、自分の無能さを鼻で笑う。

だんだん霞んでいく視界の中、動いているはずの吉沢くんがやけにスローモーションに見えた。

このまま目を閉じたら、楽になれるかな。

死ぬ前のよくある台詞のような言葉が頭に浮かんだ。
激しくなる頭痛と吐き気から逃げたくて、急に襲ってきた睡魔のような心地いいものに身を任せる。

そのままゆっくりと、瞼を閉じた。