子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ12)

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ふみは笑ったまま、吉沢くんに話しかけた。

「吉沢くんも、青春を謳歌しないとね」

『何かに夢中になったり、誰かを好きになったり？』

「…あんまり分からないです」

ヘラリと笑う吉沢くんを見て、自分も同じくらいの頃はこんな感じだったか、と思う。

でも、これからだ。私はあの頃から全てが始まった。
夢中になれたこと、楽しかった日々、好きになった人…
全てが、いい思い出。

『ここからだよ。唯一無二の何かが見つかるはず』

「確かに、私達は高二からが一番楽しかったからね」

「バスケとか、恋愛とか？」

『うん』

「先生の恋バナとか気になりますね」

「性格悪いな、吉沢くん？」

二人が笑い合う。
ふみが、やんわりと話を逸らしたのが分かった。
倫也の話がタブーになっているみたいで、少し違和感があった。

『私のは重いからねぇ』

「A、」

名前を呼ばれて我に返った。

…だめだ、私。

身勝手にもふみの優しさを踏みにじってしまったように感じて、今度は罪悪感が滲み出てきた。

『ごめんね、吉沢くん。…今のは忘れてね』

「え？」

『じゃあ、私そろそろ行くね』

ごめん、という意味を込めてふみを見たら、優しい表情で頷いてくれた。
久しぶりに見た表情に、何故か泣きそうになる。
今度、ちゃんと謝ろうと思った。

.

保健室から出て廊下の角を曲がる。
壁に凭れて、深く息を吐いた。

冷たい床を見つめて、小さく呟く。

『馬鹿』

開けられた窓から、風が吹き込む。

雨が降る前の匂いがした。