子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ2)

今日:7 hit、昨日:9 hit、合計:96,637 hit

1 ページ2

生徒達が帰った後、他の先生方への挨拶も済ませて、私は真っ先に保健室へ向かった。

ノックして返事が聞こえた瞬間、勢いよくドアを開ける。

「…A！？」

『久しぶり、ふみ！』

私の目の前にいるこの美人さん、もとい二階堂ふみは、小中高を共に過ごしてきた大親友。
大学は別だったけれど、高３の卒業式で誓った先生になるという夢は、たった今叶った。

『あー、何か涙出てきた』

「ふふ、相変わらずだなあ」

そう言って笑う彼女も大学に入る前と何も変わらない笑顔で、懐かしくなってまた泣きそうになる。

『今夜、ご飯でもどうですか？』

「喜んで」

『……あ、割り勘ね』

ばれたか、とでも言いたげな表情のふみを見て、本当に昔と同じで笑ってしまった。

.

「……で、どうなの？」

『何が？』

とある居酒屋の隅の席で、ご飯を頬張りながらそう言った。
ビールの中の氷がカランと音を立てる。

「好きな人とか」

『………』

一瞬声が出なくなって、首を横に振る。

…ほら、やっぱり心配させてた。
そう思ったら申し訳なかった。

「…そっか」

柔らかく笑いながら、ふみはもう一口口に入れる。
その動作まで絵になって、綺麗だな、と他人事のように思った。

『何か、ごめんね』

「いやいや、私の方こそ」

誤魔化すように、私も箸を伸ばす。
ふみが私の事を思って言ってくれたのは分かっている。
それでもこの空気が嫌で、咄嗟に口を開いた。

『ふみはどうなの、恋してるの？』

「そう、それがね！！」

食いぎみで話すふみを見て、ご飯を食べながら相槌をうった。

「────なの！…聞いてる？」

『あぁ、うん。それで？』

「でね！」

酔ってきてるな……
少し顔を赤くしながら話す彼女を見ながら、思わず苦笑いした。

.

あの後思いっきり酔っ払ったふみを家まで送った。
今は帰宅途中だけど、肩の辺りが重い。

家の近くの公園までたどり着いて、休憩しようと冷えたベンチに座った。
すると急に強い風が吹いた。
桜の花びらが沢山舞って、夜空を見上げる。

うわ、綺麗…

目の前に広がる光景に息を飲んで、良いものを見たな、と笑顔になる。

そこで思い出してしまった。
もう何年も前に、同じような景色を眺めたことがある。
私と、もう一人で。

…なんて、酔っ払ってるからこんなこと思い出したのかな。

『忘れられない、か…』

我に返って立ち上がる。
家に向かって歩き出した。