【JIRO】/F ページ8
｢FBお冷飲む？｣
｢うん｣
すぐ後ろにあった給水器で、空っぽになった彼のコップに冷たい水を注ぐ。
はい、とテーブルに置いてやれば、すぐさまそれに手を伸ばした。
｢若い頃は余裕で食えたんだけどなぁ。歳かね｣
少し小さめの声で苦笑いをするFB。
お腹減ったねー、ラーメン食いたい、というありふれた会話の後に、わたし達が訪れたのはかの有名な所謂��二郎系��と呼ばれるインスパイア系ラーメン店。
腹減ってるし余裕っしょ！なんて意気込んだはいいものの。
｢‥‥A、食いきれる？｣
｢‥‥‥‥がんばる｣
正直なところ、わたしは半分くらい食べてもうお腹いっぱいになってしまった。
空腹にかこつけて調子こいて普通盛りなんか頼むからだ。大人しく少なめの小サイズにしておけば良かった。
ちらりと隣の器を見れば、FBもちょっと、いや結構苦しそうな面持ちで、最後のチャーシュー(もはやラスボス)を倒しにかかっている。水を挟みながら、ようやくと言った感じで。
あのFBでさえ、普通盛りでコレだ。もうわたしでは歯が立たない。
わたしはそっと、箸を置いた。
｢‥‥‥‥キツイ？｣
｢‥‥‥‥うん｣
最後の一口を飲み込んだFBが、お冷のグラスを傾けながらわたしを見る。代謝のいい彼のそのこめかみには、一筋の汗が煌めいていた。
食券を購入する際、お金を出してくれたのはFBだ。
しかも厨房に面したカウンター席に腰掛けるわたしの目の前には、このラーメンを作ってくれた、スタッフの男の人がいる。
申し訳なさ過ぎて泣きそうだ。
｢‥‥‥‥‥‥｣
FBが、そっと、ジャケットを脱いだ。
｢持ってて｣
｢え、あ、うん？｣
脱いだジャケットを手渡され、Tシャツ１枚になった彼の動向を見守る。
彼はおしぼりでがーっと顔を拭いたあと。
わたしの残した器を取り上げた。
｢ちょ、FB｣
｢いただきます！｣
｢い、いいよFB、無理しなくて｣
｢へーきへーき、よゆーよゆー｣
冷めてしまっただろう麺を大きめの一口ですすっていく。その様は、まるでお腹が減った時の最初の一口のような勢いがある。
困惑するわたしの視線をものともせず、お冷には一切手をつけないまま、ものすごい速さで。
｢ごちそうさまでした！｣
器が、空っぽになった。
｢‥‥‥あ、ありが、と‥‥｣
｢どーいたしまして｣
ごしごしと口元を拭いて笑うFBから、目をそらす。
今の、めっちゃかっこよかった‥‥。
(‥‥吐きそう)
(だから無理しないでって言ったのに)
END
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作者名：こばやし
| 作成日時：2017年9月24日 11時
