【おこた】/A ページ11
｢風邪ひくぞ｣
うとうとと、閉じかけていた目を開ける。
お風呂上がりのあろまが、そっとわたしを覗き込んでいた。
｢‥‥‥‥ねむい｣
｢ベッド｣
｢‥‥うぅ｣
太古の昔から、人を駄目にすると語り継がれてきた魔の兵器、通称��こたつ��。
その魔力に取り憑かれたわたしは、鼻の上までこたつ布団を手繰り寄せ、暖かなその中で身体を丸め込む。
｢‥‥ほら、A｣
｢‥‥や｣
｢風邪ひくって｣
｢おねがい‥‥｣
｢だーめ｣
｢うあーー｣
ばさりと、布団をめくられた。
とたんに中に舞い込んでくる冷たい風に、更に背中を丸める。微睡んでいた頭が急に冴えてきた。
｢‥‥なにすんだこのやろぉ｣
｢‥‥‥‥いい度胸だ｣
｢ごめんなさい｣
｢わかれば良し｣
人差し指の第二関節を突き出したグーを両こめかみにセットされたので、即座に謝れば、それは優しいなでなでに変わった。ふう。一歩間違えれば死んでいた。危ない危ない。
しかしやっぱりこたつは出たくない。
しゃがみ込んでわたしの顔を見下ろすあろまの顔を、じっと見上げる。
｢‥‥‥‥んだよ｣
｢‥‥あろまも来て？｣
｢‥‥はぁ？やだよ、寝るよ｣
｢1回でいいから！｣
｢なんで｣
｢一緒にぬくぬくしよーよー｣
｢‥‥‥‥｣
立ち上がろうとするあろまの腕を掴む。
ね？と最大限可愛い顔でおねだりすれば、いや可愛くねーし、と一蹴された。なぜ。
｢‥‥寝たら殺すからな｣
｢やった！｣
｢ったく‥‥｣
よし、勝った！鬼に勝ったぞ！
仕方なく、といった様子でのそのそとわたしの隣に入ってくるあろま。
嬉しくて、侵入してきた彼の足にぴったりと自分のそれを絡ませる。
｢うわ！お前足熱い！｣
｢眠いからねぇ｣
｢子どもかよ！暑いから離れろ｣
｢やだよ！絶対離れたくない！｣
｢鬱陶しい！｣
｢やだやだ！この手は死んでも離さないから！｣
｢何の話してんだよアホか！｣
けらけらと笑いながら抱きつけば、やっぱりあろまは諦めて、わたしに身体を預けた。
首筋に顔を寄せれば、爽やかなボディーソープのにおい。
｢‥‥‥‥幸せ｣
｢‥‥‥‥あっそ｣
おでこにあたるあろまの顎が、ちょっとチクッとするのは気付かないフリをして。
ぴったり寄り添って寝そべる、暖かな冬を過ごす。
｢‥‥‥‥‥‥｣
｢‥‥‥‥‥‥A｣
｢‥‥‥‥‥‥‥‥｣
｢‥‥‥‥‥‥俺は言ったからな、寝たら殺すと｣
｢嘘ですごめんなさい起きてます｣
END
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作者名：こばやし
| 作成日時：2017年9月24日 11時
